介護のはじまり
誰にどう相談する?
介護経験のない方はもちろん、すでに介護をされている方にも是非ご覧いただきたいシリーズ「教えて介護」。第2回目は、介護のはじまりをテーマに、家族の異変を感じたときの対応や相談先についてお話をお伺いします。
認知症と決めつけず
まずは病院で診断を
——前回の記事で、介護が始まるのは、認知症になった場合か重い病気を患った時、大きくはこの2パターンあることをお伺いしました。認知症の場合はどのようにわかるのでしょうか。
阿久津氏(以下、敬称略)
一緒に暮らしている家族が気づくことがほとんどです。段々と生活が成り立たなくなってくる、普段通りに過ごせなくなる、こうした異変は暮らしている家族なら気づくことができます。
——異変に気がついたとして「認知症かもしれないから病院へ行こう」と言うのは、勇気がいることですよね。
阿久津
認知症に対してネガティブなイメージを持っている人がほとんどなので、ご本人としても認めたくなく、逆上するパターンは珍しくないです。それには自尊心を傷つけないことがポイントで、方法はいくつかあります。
例えば、自分の通院に付き添いをお願いする形で「一緒にきてくれない?」と誘っておいて、病院に着いたら「ついでに診てもらったら」と勧める方法は、上手なやり方だと思います。病院側には事前に相談し、段取りをしておけば、スムーズに診察してもらえます。
また、同世代の友人などに言ってもらう方法もあります。子どもたちから言うより素直に聞いてくれ、自尊心も傷つきにくいでしょう。ただ大切なのは、診断を待たずに家族が認知症と決めつけてしまわないことです。
——認知症と決めつけないとはどういうことでしょうか。
阿久津
認知症の症状と思えるものでも、実は他の病気が原因の場合があります。この場合、病気を治療できれば症状が消えることがありますので、いきなり物忘れ外来と決めつけるのではなく、いくつかの病院で診てもらい、セカンドオピニオンをもらうことが大切です。私の周りでも、結果認知症ではなかったケースがありました。まずは病気を疑って、その病名を明確にする。これが重要になります。
——「何か病気ではないか」から入るということですね。
専門用語に惑わされない
どうしたいかを明確に
——複数の病院で、やはり認知症だと診断を受けた場合はどうすればよいでしょうか。
阿久津
お住まいの地域に「地域包括支援センター」がありますので、そこで今後のことなど相談できます。
——相談する際に注意点などはありますか。
阿久津
地域包括支援センターに限ったことではないですが、介護の専門家はとにかく「専門用語」を使います。多くの方は、この専門用語に合わせようとして、努力されますが、その必要はありません。こちらが伝えるべきことを自身の言葉でしっかり伝え、もし相手が言っている用語がわからなければ、その意味を聞く。わからないまま合わせた会話では、結果として受けたい介護が受けられないという状態に陥ります。
——受けたい介護が受けられない状態というのは?
阿久津
介護保険制度では、要介護者の状態によって介護区分があります。介護サービスはその区分ごとに決められた点数に応じて受けることができます。
この点数を計算し、どの介護サービスをどう組み合わせるかを担っているのがケアマネージャー(通称ケアマネ)と呼ばれる人です。
介護の専門知識を持ち、複雑な点数計算を担うケアマネから、「こういうサービスの組み合わせでどうですか?」と提案を受けたら、「専門家が言うのなら」と、その提案をそのまま受けるケースは少なくありません。初めて介護をする方であれば、なおさらでしょう。
——伝えるべきことを自身の言葉で伝える、とは具体的にどういうことでしょうか。
阿久津
介護サービスは、専門家の指示に従って受けるのではありません。要介護者や介護をする皆さん自身が、日常の生活を続けていくために活用するものという発想を持っていただきたいと思います。
例えば、「仕事で、日中留守になるのでお昼ごはんを作ってほしい。この場合、週に何回お願いできますか?」といった具合に、「こういう状態だから」「こういう生活を保ちたい」「そのためにはこういったサービスを使えますか」と自身の要望を持ち、ケアマネにそれを伝えていくことが第一歩だと思います。
そのためにも、自分たちがどういう生活を送りたいかを明確にすることがとても大事になりますね。
——ケアマネは、どのようにして決まるのですか。
阿久津
ケアマネも、地域包括支援センターで紹介していただけます。名簿を渡されて、そこから選ぶのですが、先程お話ししたように、当事者たちが受ける介護サービスを決める際に重要な役割を担う方ですので、知っておきたいポイントがいくつかあります。
——ぜひ教えていただけますか。
次回は、ケアマネの選び方や付き合い方についてくわしくお伺いします。
※この記事内容は、執筆時点2021年4月1日のものです。
阿久津 美栄子(あくつ みえこ)
1967年長野県生まれ。自身の介護経験からNPO法人UPTREEを立ち上げる。介護者のための「介護者手帳」を製作し、介護家族の支援モデルの確立に注力している。2019年4月「介護あっぷあっぷくん」(介護未経験者・初心者向に向けて介護の基本的な情報、介護保険の仕組み、介護に利用できる公共サービスなどを教えてくれるLINE公式アカウント)をリリース。著書に「ある日、突然始まる 後悔しないための介護ハンドブック」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「家族の介護で今できること」(同文書院)。