家の中に潜む病気の原因…
カビ対策を徹底しよう

ジメジメとした梅雨の時期、特に気になるのは「カビ」ですね。冷暖房が完備され、気密性の高い最近の住宅は、人にも、そして「カビ」にも、極めて快適な住環境を提供してくれます。誰しも、一つ屋根の下でカビと仲良く暮らしたくはないはず。カビ退治に向けて、まずは敵を知るところから始めましょう。

監修:

高鳥 浩介

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カビ対策の第一歩は
正しくカビを理解すること

 温暖で湿潤な気候の日本で、カビと無縁で暮らすことはほぼ不可能です。
 カビ対策は生活上の必須事項であるといえますが、カビについて誤解している人が非常に多いのが実情です。
 「冷蔵庫の中ではカビは生えない」「冷凍庫に入れておけばカビは死ぬ」「カビに消毒用アルコールは効かない」「衣類のカビは漂白剤を使って洗えば死ぬ」「写真や本など紙類にカビは生えない」
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これらはすべて間違いです。
 カビの健康への影響についても、理解が広がっているとはいえません。例えば、カビの生えた食品を食べると中毒を起こすと思っている人を多く見かけますが、毒をつくるカビは種類が限られていて、日本における発症例はほとんどありません。また、体内に吸い込んだカビがアレルゲンとなって過敏性肺炎やぜんそくなどを発症したり、水虫のように特定のカビが感染症の原因となったりすることもありますが、一般論として重症化する割合は小さく、カビを極端に恐れる必要はないでしょう。
 とはいえ、誰しもカビとともに生活したくはないはず。カビは、衣・食・住に関わるあらゆるものを腐敗、劣化、変色させ、私たちの生活にさまざまな被害を及ぼす可能性も考えられます。誤った認識をしてしまわないよう、正しい知識を得て、正しく対策を取ることが大事です。

カビを生やさないことが
最善のカビ対策

 カビは、胞子が物に取り付き、そこからまるで植物が根を張るように菌糸を伸ばして成長していきます。そして、菌糸が集合体を形成し、十分に大きく成長した段階で色付きはじめます。つまり、目に見えるようになった時点で、すでにカビは広く根を張り、頑強な巣ができあがっている状態なのです。
 こうなってしまうと、一回のカビ退治でカビを除去することは非常に困難です。
薬剤を使って掃除をするとその瞬間はきれいになりますが、実は表面の菌糸が取り除かれただけ。根の部分の菌糸は、目に見えていないだけでしっかりと残っているのです。カビを完全に除去するためには、効果が菌糸全体にいきわたるまで、間隔を置かず、繰り返し薬剤を使って丁寧に掃除する必要があります。
 一度生えてしまったカビを退治するには、相当の手間を掛けなければなりません。ですから、カビ対策の最善策はカビを生やさないことであり、日頃からのカビ予防こそが最も大事だといえるのではないでしょうか。

ポイントは湿度を下げること
換気、通風が特に大事

 カビが成長するためには、①空気(酸素)、②20~30度の温度、③60%以上の湿度、④栄養の4項目が必要です。このうちの一つでも与えなければ、カビの成長を止めることができます。しかし、空気と適度な温度は人間にも必要ですし、カビは何でも栄養源にしてしまいます。つまり、空気、温度、栄養を断つことは不可能で、カビの成長を止められるかは、湿度を60%以下の乾いた状態に保てるかどうかにかかっています。その意味で、除湿機や除湿剤の使用はカビ対策に有効です(ただし、除湿剤は、こまめに交換しましょう)。また、換気や通風をすることにより、室内に滞った空気を排出し、さらに湿度を下げることでカビ発生予防手段として大切です。

 ところで、リビングなどに湿度計を置いている家も多いと思いますが、そこに表示されている湿度はあくまで周囲の空気中の湿度であり、湿度計が60%以下を示しているからといって安心してはいけません。カビにとって大事なのは、付着する物の表面の湿度です。
 例えば、冬場は室内の空気は乾燥しますが、結露が発生した壁や床、窓の表面湿度は100%になります。結露対策はもちろん、入浴後に浴室の壁の水分を拭き取るなど、普段から壁、床、窓の乾燥と清潔さを保つよう心掛けることも、重要なカビ対策の一つです。

 また、誤解しないでいただきたいのですが、湿度60%以下、温度20度以下になったからといって、カビは死滅するわけではありません。乾燥、低温の環境下でのカビは休眠しているだけで、条件がそろえば再び成長を始めます。カビ対策は梅雨時や夏場だけ行えば良いというものではないのです。

カビ除去には温湯が有効
壁には消毒用アルコールを

 最後に、生えてしまったカビへの対策について紹介しましょう。
 実はカビは、温湯(60〜70℃)で死滅させることができます。温湯に浸すことが可能な物や箇所であれば、温湯を使ってください。例えば、レースのカーテンであれば、取り外して、温湯に5分程度浸ければ良いでしょう。カビが生えやすいシンクも、温湯を張ることで、カビを退治できます。
 浴室など水で洗い流せる場所は、カビ取り剤を使って根気よく掃除してください。前述のとおり、表面がきれいになっても菌糸は残っているので、週に数回、掃除をすることが大事です。
 壁や家具など水で洗い流せない場所には、消毒用アルコールが有効です。布に消毒用アルコールを浸み込ませて拭き取り、よく乾かしてください。この作業を繰り返すことで、カビを除去することができます。

カビの発生ポイントと対策

※この記事内容は、執筆時点2020年8月1日のものです。

高鳥 浩介(たかとり こうすけ)
1972年東京農工大学大学院農学研究科修了。国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部部長を経て、NPO 法人カビ相談センター理事長に就任。東京農業大学客員教授。獣医学博士。著書に『カビのはなし―ミクロな隣人のサイエンス』(朝倉書店)など。

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