正しく知ろう!
誤嚥性肺炎の予防法
食事中にムセる、薬が飲みにくい。こんな方は近年増えている「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」の予備軍かもしれません。誤嚥性肺炎を予防するためのチェック法とトレーニング方法を紹介します。
セキが止まらない
ふいにムセる方は注意
日常生活のなかで、ふいにムセることが多くなった。セキが止まるまでの時間が長くなってきた。そんな実感はありませんか? 思い当たる方は、誤嚥性肺炎という病気の予備軍かもしれません。
誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液、胃液などが喉頭を通って気管に入ること(誤嚥)ではじまります。食道ではなく、誤って気管に入った異物は炎症を引き起こし、やがて肺炎になるのです。ではなぜ、誤嚥が起こるのでしょうか?
多くの場合その原因はのどの衰え、「飲み込む力の低下」にあります。
衰えは30代後半から
誤嚥性肺炎チェック
飲み込む力は30代後半から衰えはじめ、それによって誤嚥を招きます。では、どのような方が誤嚥性肺炎になるリスクが高いのでしょうか。まず下のチェックリストを確認してみましょう。もしひとつでも当てはまる場合は誤嚥性肺炎の予備軍です。
チェック項目の中には一見すると「のど」とは直接関係のないものも含まれています。しかし、これらはすべて「のどの老化」がはじまっているサイン。当てはまった場合は、飲み込む力が低下していると考えたほうがよいでしょう。
また、手術をした方、脚を骨折した方、リハビリができない状況にある方、デイサービスに行けない方、リモートワークで通勤が減っている方は注意が必要です。これらに共通するのは、外出が減り体力の低下が懸念される方です。実は、誤嚥性肺炎は年齢だけではなく体力の低下で起こることもあるのです。体力が衰えると、筋力や免疫力などが低下し、この病を招く呼び水となるのです。
加えて、気をつけたいのは定年退職した男性です。退職後は毎日の生活が大きく変化します。過ごし方によっては急激に老化が進む可能性がありますので、後述の「のどを鍛えるトレーニング」とともに体力を落とさないような工夫を取り入れた、健康的な生活を送るようにしましょう。
今日からできる
のどを鍛えるトレーニング
誤嚥性肺炎を防ぐには体力を維持し、日頃から「のどを鍛える」ことが重要です。ここではのどを鍛えるトレーニングのひとつ「嚥下(えんげ)おでこ体操」を紹介します(下図を参照)。
これを毎朝昼晩の食事前などに1セット10回行います。毎日続けてのどを鍛えれば、誤嚥性肺炎のリスクを大きく減らすことができます。
そのほか意識したいのは食べ方、飲み込み方です。意識して、一口ごとに「ごっくん」すること。やってはいけないのは「ながら食べ」。ムセやすくなるためNGです。食事中に会話をする場合は、きちんと飲み込んでから話すなど、食事に集中しましょう。また、上を向いて飲み込むと、ムセやすくなり誤嚥が起こりやすくなります。
「食べる」「飲む」「話す」「歌う」など、人生を楽しく過ごすためにも、のどは欠かせない器官。しっかりトレーニングをしてのどの機能を維持していきましょう。
※この記事内容は、執筆時点2021年8月2日のものです。
西山 耕一郎(にしやま こういちろう)
西山耳鼻咽喉科医院院長。東海大学医学部客員教授、藤田医科大学客員教授。30年間で約1万人の嚥下障害患者の診療を行う。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』『高齢者の嚥下障害診療メソッド』ほか多数。