人生100年時代、
「学び直しの必要性」と「長く働くこと」について考えよう

これからの人生100年時代には、社会の移り変わりが激しく、以前より働く期間も長くなることが想定されるため、若いころに学んだ知識やスキルだけでは不十分な部分も出てくるでしょう。それを補うためには、社会に出たあとも時代に合わせて学び直す必要があります。今回は、「学び直しの必要性」と「長く働くこと」について、八ツ井慶子氏に伺いました。

監修:

八ツ井 慶子

〉〉〉プロフィール

社会は変化していて
働き方も過渡期にある

 少子高齢化と人口減少が進み、社会は大きく変化しています。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大があり、この2年ほどの間にも、変化のスピードは大幅に加速しました。

 リモートワークが広がって、オフィスで行っていた仕事や会議、打ち合わせなどがオンラインでできるようになったり、大学でもオンラインで授業を受けることが特別ではなくなり、働き方、学び方、暮らし方が大きく変わっています。

 会社の体制も変化していて、例えば、日立製作所は、1日の最低勤務時間を撤廃することを決めて、2022年度中に実施予定。 そのことにより、給与は変わらずに週休3日にすることも可能になります。また、NTTグループは、2022年7月から、日本全国どこからでもリモートワークで働けるようになり、転勤や単身赴任を伴わない働き方を拡大しました。他にも、会社そのものの場所をなくして社員全員がオンラインで仕事をする会社や、居住地を問わず、完全リモートで採用を行うというスタイルの会社も出てきています。

 コロナ禍を経て私たちが今経験している社会の変化は、元に戻ることはありません。さらに、日本では寿命が延び続けており、「人生100年時代」が到来しようとしています。AI化も含め、いろいろな点で社会構造の変化が同時進行している未経験の時代に突入しています。世界中のどこにも「答え」はありません。しかし、前向きに捉えることができれば、現代に生きる私たちが新しい「社会」をつくることのできる時代ともいえます。

 「人生100年時代」では、従来のように年齢によって学んだり、働いたりといった「ステージ」が決まるのではなく、自分でステージを決めて働く時期や学ぶ時期を考えられるのが大きな特徴です。これを「マルチステージ型」といいます。「定年」という概念も変わり、いつリタイアするかは自分で決めるようになるでしょう。寿命が延びると、働く期間は自然と長くなると予測されます。

 ただし、長く働くといっても、今の働き方の延長線上ではありません。AI技術や機械、ツールを使えば労働時間は短くできますから、朝から晩まで働かなくてよくなるでしょう。また、長期的な「休み」も挟みながら、無理なく働き続けることも多くの人が求めることでしょう。リモートワークの場合は、通勤時間がなくなるので、時間に余裕も出てきます。働き方そのものが変わるのです。

 時代に合わせて長く働くために必要なのは、学び直しです。人によっては複数のキャリアを持つこともあるでしょう。すでに副業・兼業が徐々に広がってきている今は過渡期です。多くの人が複数の仕事を持って、長く働くのがあたりまえになってくると予想されます。

今の延長上では
働きつつ学び直すのは難しい

 「マルチステージ型」への過渡期といえる今の時代に、学び直しや長期の休みの時間を取るのは、残念ながらなかなか難しいものです。いったん仕事を辞めるとなれば、一時的に無収入になる不安があります。本来は、社会保障でカバーされるといいのですが、まだそこまでの改革に至っておらず、制度が追いついていません。

 今は、会社員がリカレント教育※を受けられるように、国が企業に対して「休みやすくしなさい」、「その間の補助を出してあげなさい」と、要請しているという動きです。だから、今のリカレント教育は、大企業に勤める大卒の人が、さらに大学や大学院に行くに留まっています。あくまでも会社員ベースのリカレント教育が主流なのが現状です。

※学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、教育と諸活動(仕事や余暇など)を繰り返すこと

 コロナ禍で自営業者が増えているといいます。そのような人々もプロとして仕事を続けていくためには、学び直せる機会は重要でしょう。自営業者は会社員以上に社会保障の制度が対応できていません。そう考えると、企業レベルのみならず、国レベルでもっと休みやすい体制をつくり、属性に関わらず誰もが学び直しやすい仕組みをつくってほしいと思います。

 今は心のウォーミングアップの時期といえるでしょう。時代の変化に合わせて人生設計ができるように、前もって考えておきましょう。その大前提として最も重要なのは、まず、変わることに対する心の準備です。実際、家計相談の現場でも感じることですが、“意識的”なリタイアの年齢は高齢化しています。政府のアンケート調査でも、「働ける間は働きたい」と答える割合は増えています。

 今までの働き方ではなく、いろいろな選択肢を考えて、模索し、積極的に情報収集を行いましょう。長く働くのであれば、できれば好きなことを続けたいものです。自分の好みを再確認することも大事です。やりたいことがなかなか見つからない人は、嫌いなことや苦手なことの再確認をして、それを避けるところから決めていくのでもいいでしょう。

マルチステージに移行できるよう
今すでにある制度は活用しつつ心の準備をしておこう

 まずは、今できることをやっておきましょう。現在の仕事に直結する学びや講習・セミナーに関しては会社の福利厚生制度などからお金を出してもらえる場合もあるし、雇用保険の教育訓練給付金を活用すれば、補助してもらいつつ新しい分野の知識を身につけることもできます。

 例えば、会社員が新しい分野の知識やスキルを身につけたいときは、「一般教育訓練給付金」が役立ちます。一般教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講して修了すると、入学金や受講料の20%(4000円未満は支給されない。上限10万円)が戻ってきます。この制度を使えるのは、雇用保険に通算3年以上加入している人。はじめて給付を受ける場合は、1年以上の加入でOKです。また、退職後1年以内の人も使えます。

 専門実践教育訓練給付金は、より専門的な知識を身につけるコースで使える給付金です。対象となるのは、MBA、看護師、介護福祉士、美容師、保育士、キャリアコンサルタントなど。給付期間は最長3年で、受講にかかった費用の50%(年間上限40万円)が支給されます。受講修了から1年以内に雇用されたら、70%(年間上限56万円)まで支給されます。

 まずは、雇用保険の教育訓練給付金制度と会社の福利厚生制度を見直して、使えるものがないか確認しておくといいでしょう。マルチステージ型には徐々に移行していくでしょうから、今から心の準備をしておきつつ、できることは少しずつ実行することが大事だと思います。

今回のポイント


・働き方が大きく変わってきている
・現状では働きつつ学び直すことは難しい
・変化への心がまえをして、まず、情報収集しよう
・給付金や会社の制度なども活用して、今できることをやっておこう

参考サイト:厚生労働省「教育訓練給付制度」

※この記事内容は、執筆時点2022年8月5日のものです。

八ツ井 慶子(やつい けいこ)
生活マネー相談室 代表、家計コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、城西大学経済学部非常勤講師。大学卒業後、大手信用金庫に入庫。2001年 家計の見直し相談センターの相談員として、FP活動を始める。2013年 生活マネー相談室を立ち上げ、家計相談、セミナー講師、各種メディアへの出演、執筆などで活躍中。

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