入院時の「差額ベッド料」
どんな時に請求される?

医療費にまつわるトラブルで多いのが、入院時の差額ベッド料に関することです。差額ベッド料の請求は患者への「十分な情報提供」と患者の「自由な選択と同意」がセットです。そのため、医療機関が患者に差額ベッド料を請求するには一定のルールがあります。新型コロナウイルス感染で入院になってしまった場合も含めて、イザというときに慌てないよう差額ベッド料の知識を身につけておきましょう。

監修:

内藤 眞弓

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個室だけにかかるとは限らない

 入院時の病室の広さや環境、設備などが所定の基準を満たしていれば、医療機関は独自に料金(差額ベッド料)を設定することができます。そのような病室のことを「特別療養環境室」といいます。差額ベッド料は保険診療の対象外ですから全額自己負担です。
 特別療養環境室は所定の基準を満たしていればよいので個室とは限りません。厚生労働省が定める条件は以下のとおりです。

● 1病室4床以下であること
● 病室の面積が1人あたり6.4平方メートルであること
● ベッドごとにプライバシーを確保するための設備を整えていること
● 特別の療養環境として適切な設備を有すること

  注)少なくとも個人用の私物収納設備や照明、小机、椅子を設置していること

 特別療養環境室の数や料金は、病院の受付や待合室など、患者が見やすい場所に掲示することが義務付けられており、HPで詳細を公開している病院もあります。

原則は「自ら希望」した時のみにかかる
差額ベッド料を請求できないケースは3つ

 注意したいのが、原則として、差額ベッド料は自ら希望しないとかからないということです。厚生労働省は医療機関が差額ベッド料を請求できないケースとして次の3つを定めています。

① 同意書の提出なし
② 患者本人の「治療上の必要」
③ 病棟管理の必要性等によるもので実質的に患者の選択によらない

 特別療養環境室を利用するということは患者と医療機関との契約ですから、同意書による確認が必須です。同意書には日付、病室名、料金などが記載されており、内容をよく確認したうえで、納得をしたら署名をします。患者側が同意書の提出をしていない場合、差額ベッド料の請求はできません。料金の記載がないなど、内容が不十分な同意書も無効です。
 急な入院などで混乱し、「同意書を出さないと入院させてもらえない」と勘違いをして署名するケースが目立ちますが、「今は内容の確認ができないので保留にします」と言い、あとで「十分な情報提供」を受け、「自由な選択」を行うようにしましょう。
 誤解が多いのが②と③です。それぞれ詳しくみていきます。

「②治療上の必要」は同意書があっても無効

 患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室に入院させた場合、差額ベッド料はかかりませんし、同意書の提出を患者に求めてはいけないことになっています。つまり、同意書があっても無効です。「治療上の必要」の具体例は以下のとおりです。

● 救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とするもの、または常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者

● 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者

● 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者

 気をつけたいのが、救急車で運ばれたり、手術後であったとしても「治療上の必要」に該当するとは限らないことです。あくまでも、治療のために特別療養環境室への入院が必要だと医師が判断した場合を「治療上の必要」といいます。
 重篤な状態を脱して大部屋に移れる状態になったにもかかわらず、「個室がいい」と患者が希望し、同意書による確認を行えば、同意書に記載してある日付から差額ベッド料が発生します。
 日付の確認も忘れないようにしてください。
 入院時に同意書を提出している場合、医師から「治療上の必要」と聞かされていたにもかかわらず、差額ベッド料を請求されることがあります。患者側の希望ではなく医師の指示で個室に入った経緯を明確にする意味で、医師に個室に入った理由を尋ねてください。もし「治療上の必要」であれば、いつまでが「治療上の必要」なのかを確認しましょう。

「病棟管理の必要性等」は同意書次第

 「③病棟管理の必要性等によるもので実質的に患者の選択によらない」の具体例は以下のとおりです。

● MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、特別療養環境室に入院させたと認められる者

● 特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者

 「実質的に患者の選択によらない」に該当するかどうかはケースバイケースで、同意書に署名していれば患者が選択したとみなされる可能性が高いです。
 患者本人がMRSA等に感染し、他の患者に感染させる恐れがあるというのは、患者本人の「治療上の必要」ではありません。
 同様に、「いびきがうるさい」「徘徊する」など、他の患者の療養に差し障りがあるといったケースも、同意書の有無がカギとなります。
 また、今回の新型コロナウイルスで入院した場合は治療費全額がすべて公費で賄われますので、当然費用はかかりません。 たとえ個室に入院をしても、病院以外のホテル等での療養も自己負担が発生することはありません。

 本来であれば、②や③に該当しなくなった時点で、別の病室に移るかどうかの意思確認を患者に対して行うべきですが、入院の途中から差額ベッド料を請求されるなど、この境目が曖昧にされるケースがあるようです。後日のトラブルを回避するためにも不用意に同意書を提出するのは避け、差額ベッド料を払いたくないなら、病室を変えてもらうように交渉してみましょう。
 同意書を提出した覚えがないのに差額ベッド料を請求され、「同意書はいただいています」といわれることもあります。医療機関は必要に応じて同意書を提示できるように保存しておかなくてはならないので、「内容を確認したいので同意書を見せてください」と申し出てください。

 2018年7月20日に厚生労働省は「疑義解釈資料の送付について(その6)」を公表し、不適切な同意書の取り方として2事例を示しています。一つ目が大部屋が満床のため、明確な説明がないまま同意書に署名させられた事例、二つ目が差額ベッド料の支払いに同意しないのなら他院を受診するよう言われた事例です。

 入院時には様々な書類に署名を求められますが、内容をよく確認して分からないことは納得がいくまで説明を求めるようにしましょう。

 ※厚生労働省通知「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について(平成30年3月5日保医発0305第6号)より抜粋

※この記事内容は、執筆時点2020年7月3日のものです。

内藤 眞弓(ないとう まゆみ)
1956年生まれ。ファイナンシャルプランナー、株式会社生活設計塾クルー取締役。大手生命保険会社勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。主な著書は「医療保険はすぐやめなさい」(ダイヤモンド社)。日経マネー「生保損保業界ウォッチ」(日経BP)を隔月連載。

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