無意識の健康リスク!
隠れ口呼吸に要注意
花粉症や感染症予防などでマスク生活が日常的になり、無意識のうちに口呼吸をしてしまう“隠れ口呼吸”になる人が増えています。鼻で呼吸をしないことで不調につながることも。そこで今回は、隠れ口呼吸のリスクとその対策方法についてご紹介します。
病原菌が付着しやすい
口呼吸の健康リスク
口呼吸とは、文字通り鼻ではなく口で呼吸をすること。息を吸うときと吐くときのどちらか片方だけでも口でしていると口呼吸に当てはまります。花粉症やアレルギー性鼻炎、風邪などで鼻が詰まっていると、つい口呼吸をしてしまいがちですが、健康な人でも歯並びや口周りの筋肉に問題があると、口呼吸になることもあります。一時的なら問題ありませんが、本来、呼吸は鼻でするのが正しい状態。癖になってしまうと体に悪影響を及ぼすこともあります。
鼻から吸い込まれた空気は、まず鼻毛に当たります。鼻毛は空気中の様々な病原体を除去してくれるフィルターのような働きをしています。ところが、口呼吸ではこのフィルター機能がありません。病原体がダイレクトに喉の奥に付着し、風邪やインフルエンザ、その他様々な感染症にかかりやすくなってしまいます。
鼻呼吸では鼻毛のフィルターだけでなく、エアコンのような機能も備わっています。鼻毛でフィルタリングされた後の空気が通るのは4つの部屋に分かれた副鼻腔という場所。入ってきた空気の温度と湿度を調整し、その先の粘膜を刺激することなく肺まで届けられるようにしています。車のエンジンを冷やすラジエーターのような役割もあり、副鼻腔を空気が通過するとき、脳周囲の組織を間接的にクールダウンし、脳の温度が上がり過ぎるのを抑えます。しかし、口呼吸ではこのような機能がないため、脳を冷却できず、頭がぼんやりしたり、注意散漫になったりと、思考力の低下を招いてしまうのです。さらに口の中が渇くことで、殺菌作用を持つ唾液が減少し、虫歯、歯周病などの増加にも繋がってしまいます。
マスク生活が増加させた!?
隠れ口呼吸
無意識に口呼吸をしてしまう“隠れ口呼吸”になる原因の一つは、「舌とその周囲の筋力低下」。口を閉じているとき、舌全体が上顎に沿ってベッタリとくっついている状態が舌の正しいポジションですが、舌周囲の筋力が低下すると、舌が下顎の歯の内側にだらんと落ちてしまいます。舌が落ちると隠れ口呼吸になりやすいだけでなく、滑舌が悪くなるなど、話し方にも悪影響が生じます。また、舌の根っこの部分が落ちることで気道が狭くなり、「睡眠時無呼吸症候群」の原因にもなるのです。さらに、無意識のうちに口がぽかんと開いて、間延びしたような表情になることも。次第に顔全体の表情筋がたるみ、口角が落ちたり、シワができやすくなったりと、“老け顔”の原因にも繋がります。
健康な人でも、「マスク生活」が引き金となって、隠れ口呼吸になってしまうケースが増えています。これは、マスクをしていると鼻で呼吸がしにくいうえに、周囲の人から見えないため、つい気が緩んで口が開きがちになるためです。コロナ禍でマスクをしている時間が長引き、なんとなく口元がたるんできたと感じている方は、次のチェックリストで、自分が隠れ口呼吸になっていないかチェックしてみましょう。
あなたは大丈夫?4>
隠れ口呼吸チェック
口が開いてしまっているかどうかは、自分ではなかなか気付きにくいもの。
3つ以上当てはまっている方は要注意です。
1分間鼻で呼吸をしてみると、呼吸しづらかったり、息苦しかったりする
寝ているときにいびきをかいている
寝起きに口の中が渇いている
喉がカラカラで目が覚めてしまう
マスクをして集中しているときよだれが垂れてしまったり、マスクの内側に口が開いた状態でリップの跡がつく
滑舌が悪くなってきたと感じる
お茶やコーヒーを飲むと歯に色素が着色しやすい
舌や頬の内側を噛みやすい
口を閉じようとすると、下唇の下に梅干しのようなシワが入る
隠れ口呼吸の改善と予防
口元を鍛えてトラブル回避
百害あって一利なしの隠れ口呼吸。アレルギー性鼻炎や花粉症、また肥満など体質の問題で鼻呼吸ができないときは、まずは内科や耳鼻科の診療を受けるのが最優先です。
そういった問題がなく、マスク生活が原因で隠れ口呼吸になってしまっている場合は、日頃の意識付けで十分に改善が可能です。例えば、生活動線に「口呼吸になっていませんか?」というシールなどの目印を貼っておき、目に付いたときに呼吸を確かめる方法は、鼻呼吸の習慣付けに有効です。
また、日々の食生活を見直してみましょう。もしやわらかいものばかり食べているなら、サラダの中にナッツを入れる、お豆腐の上にじゃこや胡麻をのせるといった少しの工夫で、歯ごたえをプラスしてみてください。顎周りの筋肉が発達すれば、無意識のうちに口が開いてしまうことを予防できます。
舌や口周りの衰えを感じている人は、トレーニングを取り入れるのもおすすめです。以下に紹介する「隠れ口呼吸改善トレーニング」は、舌やその周囲の筋肉を集中的に鍛え、隠れ口呼吸の改善に繋げるトレーニングです。継続することで、落ちた舌が正しい位置に戻り、鼻呼吸がしやすくなります。舌のトレーニングによって、隣接する表情筋などもつられて動くので、表情が豊かになるはずです。顔全体の血液やリンパの流れが良くなったり、むくみが取れるなど、美容面にもプラスの効果があります。ちょっとした意識付けで隠れ口呼吸を予防し、健康的な生活を送りましょう。
※この記事内容は、執筆時点2024年6月30日のものです。
末光 妙子(すえみつ たえこ)
医療法人財団匡仁会 理事長/歯科医師。虫歯の診療を続ける中で、大切な歯を守るためには予防歯科の普及と、より気軽に歯科医院に通うことができる環境が必要と考え、ホワイトニング専門医師として活動を始める。2011年、虫歯予防の効果も得られるホワイトニングの普及のため、専門医院ミュゼホワイトニングの立ち上げに携わり、現在は同歯科医院を運営する医療法人の理事長を務める。