災害で「水道」が止まったら?
知っておこう!ライフラインへの備え①

普段、当たり前のように使っている水道・電気・ガスなどのライフライン。大規模災害が起こるなどして、これらが止まったら、たちまち不便な生活を強いられてしまいます。そこでこの企画では、ライフラインが止まってしまったときにどのような対応をすればいいのか、また普段から備えておくべきことはどんなことか、などについてご紹介します。第1回目は「水道」が止まったときの対応と備えをお伝えします。

監修:

岡部 梨恵子

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1日に必要な1人当たりの水の量は?

 地震や台風の発生時、地盤の緩みによる水道管の破損、取水施設や送水ポンプの損傷、浄水処理場の停電など、水が止まる要因はさまざまにあります。水道管は地中に埋まっているため、壊れた箇所の特定に時間が必要になるなど、復旧までに時間がかかることが多く、最大3カ月に及ぶこともあるといわれていますので、いざというときのためにシミュレーションして備えておくことが大切です。
 では、私たちは普段、どれくらいの量の水を使っているのでしょうか。まずは、1日に必要な1人当たりの水の量を見てみましょう。

【1日に必要な1人当たりの水の量】

飲用水(調理含む):3L
トイレ:バケツ1杯(3~4L)×男性5回~/女性8回~
洗顔・歯磨き:500ml
洗濯(水洗い):4L
シャワー(5分):32.5L

 こちらは1人分の量ですので、家族で暮らしている方は家族の人数分が必要となります。私たちは知らず知らずのうちに、毎日これだけの水を使っているので、急に水が止まると、たった1日でも大変困ることになります。

水道が止まった場合の生活とは

 たとえば、2022年9月に起きた台風15号による静岡市清水区での断水被害では、約6万3千世帯に影響し、完全復旧までに1週間かかりました。その際、人々が困ったのは主に下記のようなことです。

【水道が止まって困ったこと】

・トイレの水を流せない
・飲料水が足りない
・調理用の水が足りない
・食器・調理器具・食材が洗えない
・洗濯ができない
・入浴できない
・シャワーが使えない
・歯を磨けない

 災害などの有事の際は不安感を強く感じるものですが、それに加え、普段当たり前に行っていることができなくなると、心のバランスも崩しがちになります。また、節水するあまりに水を飲むのを我慢して、脱水症状やエコノミークラス症候群を引き起こす人も増えるようです。水は体と心を支える大切な命綱。備蓄はしっかりしておきたいものです。

一番困るのはトイレ!

 なかでも、被災者の方々が最も困ったことの第1位は「トイレ」でした。地震の衝撃などで配管が壊れているのに流してしまった場合、特に集合住宅では階下に水漏れしてしまうことがあるので、配管のチェックが済むまでは水を流してはいけません。
 災害時、自治体により仮設トイレが設置されますが、数が不足しているうえ、汲み取りの頻度も低く、排泄物がどんどん蓄積され、即満杯に。多くの人がトイレを我慢しなければならず、その結果、エコノミー症候群を発症して体調を崩すなどの健康被害も過去には発生しました。
 家庭内でできる対策としては、水を使わないで排泄処理ができるものとして「非常用トイレセット」があります。既存のトイレに被せて使うタイプや、段ボールでできた簡易トイレなどがあります。
 ただ、災害発生直後のごみの収集は一時的に停止する場合がほとんどで、長期間、汚物の入った袋を家に置いておかなければいけません。携帯トイレを選ぶ際は、匂いや雑菌などの対策がきちんとされた携帯トイレを選んだり、また保管する袋は破けて中身が漏れてないよう、丈夫な材質のものを選ぶなど、「トイレごみ」の問題も気にしておかなければなりません。

水が止まったときにやることは?

 それでは、水道が止まってしまった場合、まず何から行動したらいいのでしょうか。優先順にお伝えします。

①最も身近なコミュニティに情報を取りに行く

 災害時の情報収集というと、真っ先にインターネットを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、断水における被害状況は地域やエリアで細かく分かれるため、自治体などの大きな単位で伝えられるインターネットの情報は、当てはまらないことも多くあります。そのため、情報源は小さなコミュニティであるほど正確といえます。所属する町内会、マンション管理組合などから情報を収集するのが最も有益です。

②備蓄品をチェックし、不足しているものをコンビニやスーパーなどに買いに行く

 断水になったら速やかに、現在ある備蓄品(※下部参照)をチェックし、不足しているものをコンビニやスーパー、ドラッグストアなどに買いに行きましょう。ただし、災害後は、コンビニやスーパーには長蛇の列ができたり、「水は1人当たり○本まで」といった数量制限が発生することが多いです。また、ニーズの高いものは一気になくなるので、災害直後に手に入れようと思ってもなかなか難しいものです。普段からの備蓄を心掛け、必要なものに絞って買い出しに行くようにしましょう。

③給水所に水をもらいに行く

 長期にわたる断水では、水道局からの給水を受けもらいに行くことが必要になります。まず、水道局のホームページなどで給水に関する情報を確認し、近隣の給水所の場所をチェックしておきましょう。
 給水時にはポリタンクを利用するイメージを持たれている方が多いですが、実は、ポリタンクは重くて運ぶのが大変。ペットボトルに水を入れてリュックなどで運べば悪路にも対応しやすくなります。また、防災グッズとしてリュック型の給水袋なども市販されているのでそういったものを利用するのもおすすめです。

※家族が多い場合は①~③を役割分担して、それぞれに同時に行うのがいいでしょう。

事前に備蓄しておくと良いもの

●水

 給水支援やライフラインの回復を待つだけではなく、自分たちの力で生活できるよう普段から備蓄しておくことが大切です。
 飲料水、生活用水ともに、家族分×7日分用意しておくことが望ましいです。ただ、それらをしっかり備蓄するとしたら、大変な量になってしまいます(家族4人の場合:1日1人3L、3L×4人(12L)×7日分=84Lが必要。2Lのペットボトル6本入りの箱が7箱にもなります)。一般の家庭では置き場に困ることもあると思いますので、難しい場合は、少なくとも3日分を準備。生活用水については、「衛生用品」で紹介するグッズなどを上手に活用して、できるだけ水を節約できる方法を考えましょう。

●食料

 備蓄する食品と聞いて乾パンなどをイメージする方も多いのではないでしょうか。乾パンは調理が不要で、賞味期限が長いので備蓄に向いています。しかしパサパサしていて味気ないので、実際はお米や乾麺、缶詰など、保存性の良い食材の方がベター。普段食べているような食品の方が災害時でも美味しく食べることができ、精神的な負担も最小限に抑えることができます。

 また、断水中は、食器を洗う水を確保するのも大変になります。最近では、調理不要でも美味しいカレーセットや、パンの缶詰、温めるだけで美味しい「災害食」も種類も豊富にあります。そういった食品の中から好みに合ったものをお買いになることをおすすめします。

 水と同時にガスも止まっている場合もありますが、カセットコンロとカセットボンベがあれば加熱調理ができるようになりますし、お湯を沸かすこともできます。カセットボンベは1日1本×7日分くらい備蓄しておくのが理想です。(ガスについては次回記事参照)

●食器

 断水中はなるべく洗い物を出さないよう、食器は紙皿、紙ボウルなどの使い捨てのものを使いましょう。

●ラップフィルム

 災害時に大活躍するのがラップフィルムです。ラップフィルムをお皿に敷き、食べ終わったらラップフィルムを捨てれば食器を洗う必要がなく清潔なお皿を保つことが可能です。ラップフィルムは必需品として常備しておきたいものです。

●衛生用品

 水が使えなくなると入浴や歯磨き、トイレなどが制限され、衛生面での困りごとが増えます。次のようなグッズを用意しておくと、水が使えなくても清潔を保て、生活用水の節約にもなります。

・体拭き→大判のウェットティッシュやボディシート
・手指の衛生管理→ウェットティッシュ
・洗髪→ドライシャンプー
・歯磨き→ペーパー歯磨き
・トイレ→非常用トイレセット

【大判のウェットティッシュ、ウェットティッシュ】

 災害時は入浴ができないため、体を拭くために大判のウェットティッシュが活躍します。また、ウェットティッシュは、手を拭くだけではなく、掃除に使ったり、手洗いや食器洗いの水の代用品としても使用できます。さまざまな使い方ができるので、必ず用意しておきましょう。

 ウェットティッシュの代わりに赤ちゃんのお尻ふきもおすすめです。赤ちゃんのおしりを拭くためのものなので、肌への負担も安心。ウェットティッシュよりも大判で破れにくくしっかりしているものが多いので、体を拭く時などには使いやすいでしょう。また、掃除には古着や古タオルを濡らして使用することもおすすめです。

【ドライシャンプー、オーラルケア用品】

 断水時はお風呂に入れず、髪の毛が洗えないことも気になります。そんなときに活躍するのが水なしで洗髪できるドライシャンプーやシャンプーシート。汗などによる髪のニオイが気になるという場合は用意しておきたいアイテムです。

 また、オーラルケアとして、水を使わずに歯を磨けるペーパー歯磨きや糸ようじなども用意しておきましょう。災害時はストレスが溜まりますが、お口の中をスッキリさせるだけで気分転換になります。

【非常用トイレセット】

 便座がなくそのまま使えるものや、便座にセットして使うもの、凝固剤と袋がセットになっているもの、簡易の段ボール枠が付いているものなど、さまざまな種類があります。そのなかでも、凝固剤に除菌(抗菌)効果や消臭効果のあるものや、臭いを抑える設計になっているものを選ぶことが重要です。便が入った袋を捨てる際には、菌も通さず防臭力も高い、防臭袋に入れて捨てることをおすすめします。

<コラム>

「ローリングストック」の習慣を付けましょう


 災害時のためだけにお水や食料を備蓄しておくことは保管場所も取りますし、なかなか難しいものです。そこで、日常の中に食料備蓄を取り込む考え方「ローリングストック」がおすすめです。

 普段から少し多めに食材を買っておき、使ったら使った分だけ新しく買い足していくことで、常に一定量の食料を家に備蓄しておくことができます。賞味期限の管理もでき、いざというときにも安心して食生活を送ることができます。

まとめ

 水は生存するために最も必要なものです。飲料・生活用水の備蓄に加え、トイレや衛生用品などの水を使わないでも対応できるアイテムがあることを平時の今から知って備えておきましょう。また、いざという時に適切な情報を収集できるように、普段から身近なコミュニティに関わっておくこともとても大切です。
 過去の大規模な災害時には、公的な支援がなかなか届かないことがありました。自分と大切な家族を守るためにも、普段から災害が起きた場合のシミュレーションや、やるべきことを話し合って、十分な備えをしておきましょう。

※この記事内容は、執筆時点2023年7月26日のものです。

岡部 梨恵子(おかべ りえこ)
防災士。ファイナンシャルプランナーと整理収納アドバイザーなどの資格も活かし、防災グッズや備蓄品、被災後の食や暮らしの知識についてもセミナーを開催。わかりやすい語りでメディアへの出演も多数。

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