他人事ではない
「住宅火災」対策をしよう
日本では、毎年4万件前後の火災が発生しています。火災を他人事とせず、火災を起こさない、被害を最小限にとどめる対策を実践しましょう。
日頃の心がけ、事前の対策、
火災発生時の対応を知る
2016年12月22日、新潟県糸魚川市において大規模な火災が発生しました。建物の焼損面積は約3万㎡。鎮火までに約30時間を要し、新聞各紙やニュースで大きく取り上げられました。
この糸魚川市大規模火災は、私たちにさまざまな警鐘を鳴らしています。まずは、出火原因が「こんろの火を消し忘れ、その場を離れてしまった」という、誰もが起こし得る“住宅火災の典型例”だったこと。次に、火元および周囲の家並みが、密集した木造建物のエリアであったため、火災が1つの街区全体に早期に拡大したこと。同じような古い木造の密集街区は、全国に数え切れないほど存在します。
そして、たとえ自宅が出火元でなくとも、もらい火によって甚大な被害を被る可能性があること。これらは日頃の住宅火災対策がいかに重要であるかを改めて認識させるものです。
耐火造住宅に比べて木造住宅が火災に弱いことは、データ上でも明らかです。火災による死者数および死者発生率(以下、放火自殺者等を除く)の上位を占めるのは、木造住宅と木造集合住宅。また、日本では毎年約1300人の命が火災によって失われていますが、死者の約65%が65歳以上の高齢者です。木造住宅に住んでいる高齢者は特に強い危機意識を持ち、その他の人も住宅火災は決して他人事ではないと考えてください。
上記の「住宅火災の発火源別死者数(放火自殺者等を除く)」のグラフを踏まえたうえで、
①寝タバコをしない
②ストーブは燃えやすいものから離れた位置で使用する
③ガスこんろなどのそばを離れるときは、必ず火を消す
④キッチン周りには可燃物を置かない
を徹底しましょう。以上の4つを最低限守ったうえで、「火災はヒューマンエラーで起こるもの。常に火災の原因を意識すること」を忘れないでください。また、高齢者の多くに、料理中に衣服の袖口などに火が引火し、火災や火傷に繋がる「着衣着火」が見られます。料理時は燃えにくい生地のアームカバーなどを着用すると良いでしょう。
近年は安全装置の付いた暖房器具やこんろが増えていますが、「IHだから安心」「オール電化だから安全」といった慢心こそ災いの元。常に油断は禁物という意識を持つようにしましょう。
次に、住宅火災の被害を最小限にとどめるための事前対策を紹介します。
※消火器の使い方はコチラを参照
以上の3つの対策を実践することで、被害を最小限に食い止め、近隣住戸への延焼を防ぐことができます。また、火災保険に加入しておくことも重要な対策の1つです。
加えて注意すべきが、火災の原因として常に上位にランクする放火への対策です。明るくて人の気配のある場所を嫌う放火魔に対して、
①玄関などに自動点灯する照明を設置する
②自宅の周りに暗い場所を作らない
③通りから見えづらい死角を作らない
④自宅の周りにゴミなどの可燃物を置かない
ことを実践しましょう。
最後に、火災発生時の対応について紹介します。
まず、住宅用火災警報器で火災を察知したら、高齢者や身体の不自由な方、子どもや乳幼児らを屋外に避難させましょう。次に、消火器や水バケツを使って初期消火を行います。その際、あらかじめ逃げ道を確保することを忘れないでください。
火災は、初めのうちは一部の壁や家具が燃えている状態が続きますが、室内の可燃物が熱せられて着火温度に達すると、一瞬のうちに部屋全体が炎に包まれます。この現象はフラッシュオーバーと呼ばれ、室内は酸欠状態となり、一酸化炭素や二酸化炭素濃度が急激に上昇。黒煙がもうもうと立ち上り、一気に命の危険が高まります。フラッシュオーバーが発生する前に避難するための目安として、炎の高さが自分の目線の高さを超えたらすぐに逃げるようにしてください。いったん外に逃げたら、再度家財を取りに行くといったことはせず、何より人命を守ることを重視してください。
火災は予期せぬものであり、いざ直面すると人は動転してしまいます。被害を最小限に抑え、冷静に対処するためにも、今回紹介した日頃の心がけ、事前の対策、火災発生時の対応をしっかりと胸に留め置いてください。
※記事内容は、執筆時点2020年8月1日のものです。
関澤 愛(せきざわ あい)
自治省(現総務省)消防庁消防研究所や総務省消防庁消防研究センターなどの要職を経て、2010年より東京理科大学大学院国際火災科学研究科教授に就任。住宅防火や都市防災、避難安全の第一人者として研究・教育に携わり、数多くの著書を発表している。