若い世代でも噛めない人が増加中
噛む力を鍛えてフレイル予防!

ライフスタイルや食べ物の変化により、現代人の噛む回数は減っています。噛む力が弱くなると、メタボやフレイル(健康と要介護状態の中間)になってしまうことも。噛むことの重要性を知って、噛む力を鍛えていきましょう。
噛む力が低下すると
大食いやメタボの原因に
食べ物はよく噛むことで、飲み込みやすく、消化しやすい形状に。そうして摂取されたさまざまな栄養により、健康な体が維持されています。
しかし、現代人は噛む回数が減って、噛む力が弱くなってきています。噛む力は高齢になると弱っていく傾向がありますが、今は若い世代でも噛む力の弱い人がみられます。
よく噛まずに早食いになると、満腹感を得にくいために食べ過ぎてしまいがち。また、噛む力が弱ってくると、硬い肉や野菜は食べにくいので、糖質や脂質が多めのやわらかい食事中心になって栄養バランスが偏り、メタボリックシンドロームになることも。メタボでは心臓病や脳卒中になるリスクが高くなります。

オーラルフレイルは
全身のフレイルや誤嚥を招く
さらに70〜80代になると、噛む、飲み込む、話すなどの口腔機能が低下した「オーラルフレイル」になる可能性が。そうなると、食べられる量が減るために低栄養になり、全身のフレイル(虚弱)が加速してしまいます。
また、オーラルフレイルになると、食べ物をのどに詰まらせる「誤嚥」のリスクも上がります。令和4年の65歳以上の「不慮の事故による死因別死亡数(※1)」では、食べ物の誤嚥による窒息死が年間約4300件もあり、これは交通事故の約2倍に相当します。
意識して噛む力を
鍛えていくことが大切
1日あたりの噛む回数は、非常に大きな個人差があります。小学5年生対象の調査(※2)でもすでに差があるので、よく噛む習慣づくりは食育の面でも重要といえるでしょう。
よく噛まない人だけでなく、1日1〜2食の人や、スムージーなどで食事を済ませる人なども、必然的に噛む回数が少なくなります。「自分はあまり噛んでいないかも」と思う人は、意識して日々の食生活で噛む力を鍛えて、衰えさせないようにしましょう。
噛む力を鍛える方法
噛み応えのある食材を選ぶ
しっかり噛む必要がある食材を食生活に取り入れましょう。「咀嚼回数ランク表(※3)」によると、回数が多いのはシリアル、さきいか、アーモンドなど。とんてきなど焼いた肉も上位に入っています。

調理法を工夫する
食材を大きめに切ったり、加熱時間を短めにしたりして、噛み応えを残しましょう。また、よく煮込んだ野菜よりも、生野菜の方が噛む回数を増やせます。
口腔環境を健やかに保つ
虫歯や歯周病、顎関節症なども噛む力を低下させる原因になるので早めに治療を。定期検診もぜひ受けましょう。
グミやガムを噛む
口がさみしいときは、ハードグミやガムを噛むようにしましょう。

※1厚生労働省「人口動態調査」第5.31表より算出
※2日本咀嚼学会雑誌「かむを測り、気づき、変えるための食育プロジェクト」2021年
※3和洋女子大学柳沢幸江、(株)ロッテ、キユーピー(株)共同作成2022年
※この記事内容は、執筆時点2024年6月30日のものです。
小野 高裕(おの・たかひろ)
大阪歯科大学歯学部高齢者歯科学講座専任教授。日本老年歯科医学会、 日本咀嚼学会、日本顎口腔機能学会などの理事も務める。共著に『咀嚼の本2』『咀嚼の本3』(口腔保健協会)ほか。