若い世代も、女性も要注意!
お酒を飲まない人の肝臓の病気

肝臓病は「お酒を飲む人がなるもの」というイメージがありますが、実は、お酒を飲まない人でも肝炎や肝臓がんになることは珍しくありません。お酒を飲まない人もぜひ知っておきたい、肝臓を守る方法をご紹介します。

監修:

泉 並木

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食べ過ぎ・運動不足で脂肪肝
そして肝炎、肝硬変へ

 肝臓は人の生命の維持に欠かせない臓器。食事で摂取した栄養を体内で使える形に作り替える「代謝」、体にとっての有害物質(アルコールなど)を無害化する「解毒(分解)」など、非常に重要な機能を担っています。

 肝臓には高い再生力があり、炎症などで障害されても自力で修復・再生することが可能です。しかし、それにも限界はあります。アルコールなどを過剰に摂取していると肝臓の機能が低下して健康に支障をきたすことは有名でしょう。
 ところが、近年は、アルコールを飲まない人でも肝臓を壊す人が多く見られるようになりました。その主な原因は「食べ過ぎ」と「運動不足」。肝臓は栄養を分解した際、体ですぐに使わない分は一時的に貯蔵し、必要なときに放出します。しかし、たくさん食べて、運動しないでいると、エネルギーが消費されずに、脂肪としてどんどん肝細胞に溜まっていきます。そうして、脂肪がたくさん付いた状態が「脂肪肝」。アルコールを飲まない、もしくは飲んでも1日あたりアルコール20g未満(日本酒換算で1合未満)の人の場合、「非アルコール性脂肪肝」とされます。
 この脂肪肝の状態でとどまっていれば生活に支障はないのですが、一部の人は炎症を起こし、「NASH(ナッシュ)/非アルコール性脂肪肝炎」に進みます。さらに肝細胞が壊死して線維化が進み、肝臓全体が硬くなると「NASH肝硬変」となり、肝臓の機能を果たせなくなります。さらに5年後には、約1割の人が「肝がん」になってしまうのです。
 脂肪肝からNASHになりやすい人は、「男性」「50歳以上の女性」「BMIが25以上」「生活習慣病がある」「健康診断で肝機能低下が見られる」といった傾向があります。肥満はもちろん、小太り程度でもNASHになるリスクは高め。NASHになる前に、脂肪肝を予防・改善することが大切です。

健康診断で肝機能をチェック
早めに受診・対策を

 肝臓は多少の炎症が起こっても痛みや不調などを感じないので、「沈黙の臓器」と呼ばれています。自覚症状があったときには、すでに重症になっていることも。そこから治療を始めるのは、心身ともに負荷が高くなります。
 ですから、定期的な健康診断で早めに異変に気付き、対策を始めることが大切です。健康診断で行う血液検査で、肝機能の項目をチェックしましょう。

 基準値を超えていたら、早めにかかりつけ医を受診し、肝炎が疑われる場合は専門医に紹介状を書いてもらうようにしましょう。専門医では、より詳しい血液検査や、超音波検査、CT/MRI検査などで肝臓の形や脂肪の状態などを確認し、必要であれば肝生検(肝臓の一部を採取する検査)を行って診断します。

脂肪肝やNASHの
予防・改善は食事と運動で

 脂肪肝やNASHの予防・改善には「食事」と「運動」の仕方がポイントです。
 食事は、肝臓に余計な負担を掛けない食べ方を心掛けて。肝臓は24時間休まずに働いていますが、中でも栄養の分解と貯蔵のため、食後にフル稼働します。食べ過ぎは肝臓を酷使するので、1日3食、規則正しく適量で。肝機能が低下している人は原則禁酒です。
 栄養面では、脂肪と糖の摂り過ぎに注意。体内で消費されない分は脂肪になって肝臓に溜まってしまいます。高たんぱく・低脂肪の赤身肉や魚、ビタミン・ミネラルが豊富な緑黄色野菜は、積極的に摂取しましょう。
 運動で筋肉を付けると、肝臓の負担軽減に。筋肉は「第2の肝臓」と呼ばれ、肝臓と同じく糖質の貯蔵・代謝機能や、有害物質の解毒機能があります。積極的に運動すると肝臓に溜まった脂肪を消費できるうえに、筋肉量が増えて肝臓を助けることもできるのです。
 肥満の人は体重の7%減量を。それだけで肝臓の機能改善が見込めます。

※この記事内容は、執筆時点2023年6月30日のものです。

泉 並木(いずみ なみき)
武蔵野赤十字病院院長。30年以上、同病院の肝臓専門医として従事。専門は消化器科、特にB型・C型肝炎、肝がんの診断と治療。肝がんのラジオ波熱灼療法の第一人者として世界的にも知られている。日本肝臓学会の肝がん撲滅運動の東京都責任者として、TV等のメディア出演も多い。『肝炎のすべてがわかる本 C型肝炎・B型肝炎・NASHの最新治療』(講談社)など著書多数。

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