元気のバロメーター「健康診断」を読み解く
Vol.3肝機能

多くの方が利用する健康診断。「体重が増えた」「今年はCがあった」など、何となく結果を見て終わりになっていませんか?健康診断の結果はきちんと読み解けば現在の体の状態を知ることができ、早めに対処することで将来の病気を予防できる重要なバロメーターです。最終回となる今回は、「肝機能」についてご紹介します。

監修:

近藤 慎太郎

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「肝機能」の3項目は
何を表した数値?

 不調が現れにくい臓器であるからこそ、健康診断では「肝機能」の項⽬を正しく読み解く必要があります。
 まずは「肝機能」の3つの数値は何を⽰しているかをご紹介します。健康診断の結果が⼿元にある⽅は⼀緒に確認してみましょう。

 肝機能の項目にある「AST(GOT)」と「ALT(GPT)」です。どちらもアミノ酸を合成するために必要な酵素の名前を表しています。AST(GOT)は肝臓・心臓・筋肉・骨・腎臓にある酵素で、ALT(GPT)は主に肝臓に多く存在する酵素です。
 また、「γ(ガンマ)-GTP(γ-GT)」はたんぱく質を分解し、同様にアミノ酸の生成には欠かせない酵素です。肝臓や肝臓で作られる胆汁を運ぶ胆管の細胞に多く含まれ、胆管や胆道が何らかの理由により詰まると数値が上がります。

 これらは細胞が破壊されたときに血液中に流れ出します。健康診断ではその血中濃度を計ることによって肝機能の状態を調べることができます。(ただし、AST(GOT)は、運動後などにも上昇するので、健診の前日や直前の過度な運動は避けた方がいいでしょう。)
 つまり、この3つの肝機能の数値が上がっている場合は、なんらかの原因で肝臓がダメージを受けて悲鳴を上げていることを示しています。

肝炎に要注意
肝硬変や肝がんのもと!

 肝機能の数値が高いということは、「肝臓が繰り返し壊れている」ということです。これは肝臓に炎症がおきている肝炎の状態で、原因はさまざまあります。薬や化学物質、アルコールによるものや、また、肝炎を起こすウイルスには、A・B・C・D・E型、EBウイルスなど、様々なものがあります。なかでもB型・C型肝炎ウイルスは、感染すると長期間にわたり炎症が続く「慢性肝炎」の原因となります。
 B型肝炎ウイルスは、一昔前までは感染者の母親から子どもへ出産時の母子感染が多くを占めましたが、出産時のチェックが徹底されたことにより激減しています。現在、性交渉などで感染するケースがほとんどです。
 C型肝炎ウイルスは輸血や針刺し事故などで感染することが多かったのですが、現在は新規発症は稀になっています。
 B型肝炎、C型肝炎ともに、急性肝炎を発症したのち、そのまま完治する場合もあります。しかし一部は、ウイルスがすみついて慢性化し、肝硬変や肝がんへと進む場合もあります。

どの値が高いかによって
疑われる病気は異なる

 肝機能数値を読み解くことでアルコール性肝機能障害・胆管などの圧迫や閉塞・肝硬変・肝炎などを発見することが可能です。肝機能のうち、どの値が高いかによって疑われる病気が異なります。

γ-GTPが基準値を超えて高いとき … アルコールが原因のことがほとんどです。他、薬剤や肝臓、胆道、膵臓の病気の可能性もあります。
AST(GOT)ALT(GPT)の値も高いとき … 肝臓の病気(肝炎・脂肪肝・肝硬変)が隠れている場合があります。

 どの値が高いかによって目に見えない臓器の状態を推し量ることができますので、毎年の健診できちんと確認しましょう。
 また、肝機能の数値が高い場合には食事のバランスを整えることが大切です。特に飲酒の習慣がある方は、お酒の量を控えましょう。国が定めるアルコール摂取量は1日あたり日本酒にして1合、ビールなら中びん1本程度とされています。アルコールは依存性が高い薬物です。週に3日の「休肝日」を設けることで、肝障害や依存症を予防できるとされています。(※1)そのため休肝日を習慣化しましょう。

「肝臓」って体の中で
どんな働きをしているの?

 肝臓は栄養素や薬剤、害のある物質が体内に⼊ってきたとき数千種類もの酵素を使い、特定の物質へと変化させる化学工場のような役割を担っており、主に3つの働きがあります。

①代謝

 体内に⾷べ物が⼊ってきたとき、胃や腸で分解・吸収された栄養は肝臓に運ばれ、体で利⽤しやすい形へと変えられます(代謝)。
 炭水化物(糖質)や糖類は、小腸から「ブドウ糖(血糖)」として体内に取り込まれます。その後、肝臓で「グリコーゲン」に合成されます。脂質は、脂肪酸やグリセリンに一度分解された後、肝臓で「中性脂肪」や「コレステロール」などに合成され、体の機能を維持していくために利⽤されているのです。
 また、タンパク質は、胃や腸でアミノ酸に分解されます。アミノ酸から再び体に必要なタンパク質に合成するのも肝臓の働きです。

②解毒・分解

 血液中のアルコールやニコチン、薬剤などを分解し、毒性の低い物質に合成して排出するという解毒・分解作用があります。また、「代謝」の働きで体内に発生するアンモニアを尿素にするなど、有害な物質を無害な物質に変えて排出しています。

③胆汁の合成・分泌

 胆汁には小腸で脂肪を消化・吸収を助ける働きと、肝臓の不要な物質を排出させる働きがあります。コレステロールと胆汁酸からつくられており、血中のコレステロール濃度を調整する機能も持っています。

 このように、人間が生きていく上で欠かせない働きを休みなく行っているのが肝臓です。その働きから、人々の豊かな暮らしを支える「工場」と例えられます。肝臓は成人の場合体重の約50分の1の大きさで、約1~1.5kgほどある最も大きな臓器です。肝機能が正常であれば、70%を切除されても、再生し、半年後には元の重量に戻るといわれています。この高い再生能力のおかげで肝機能が少々下がったくらいではハッキリとした不調が現れにくい臓器でもあるのです。

まとめ
 肝臓は体内の栄養素や体に害のある物質を分解・解毒する働きをもつ臓器です。肝機能を表すAST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTP(γ-GT)のどの値が高いかによって、現在の肝臓の状態を推察することができます。数値をよく見比べ、基準値に収まっているか、高い場合はどの値が高いかを注意して確認しましょう。肝機能の値が高くなっている方は、食事の栄養バランスを見直してください。特に飲酒の習慣がある方は、お酒の摂取量を見直して1週間に3日の「休肝日」を設けましょう。

参考:人間ドッグ学会「検査表の見方」
厚生労働省「日常生活の場でウイルス肝炎の伝播を防止するためのガイドライン」
厚生労働省「B型肝炎について(一般的なQ&A)」
厚生労働省「C型肝炎について(一般的なQ&A)」
※1 厚生労働省の多目的コホート研究「飲酒パターンと総死亡との関連について」

※この記事内容は、執筆時点2024年1月10日のものです。

近藤 慎太郎(こんどう・しんたろう)
医師兼マンガ家。近藤しんたろうクリニック院長。日赤医療センターなどで勤務。北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部付属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任。消化器の専門医として、これまで数多くのがん患者を診療。近著に『ほんとは怖い健康診断のC・D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』 (日経BP社)などがある。

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