手口はどんどん巧妙化…
身近な詐欺に要注意!

オレオレ詐欺をはじめ、何者かになりすまして金銭をだまし取る犯罪が多様化・増加し続けています。具体的な手口をあらかじめ知っておくことで、だまされないように心構えをしておきましょう。

監修:

西田 公昭

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いまだに後を絶たない振り込め詐欺

「会社のお金が入ったカバンをなくした。このままだとクビになってしまう」子や孫などの名前をかたり、不安を誘うセリフで金銭をだまし取る「オレオレ詐欺」をはじめ、利用していないサービスの利用料を請求する「架空請求」や、医療費や年金などの返還をかたった「還付金等詐欺」など、振り込め詐欺には多様な手口が存在します。いずれもその手口を聞くようになり久しいですが、類型犯罪を含めた2018年の発生件数は1万6496件、被害総額は363億9千万円にのぼり、依然として注意が必要です。

 こうした結果を受け、警察は数年前から「だまされたふり作戦」を展開。詐欺の電話を受けた人にだまされているふりをしてもらい、金銭の受け渡し場所で警察が待ち伏せします。詐欺グループの一員を逮捕する実績を上げている一方、最近ではこの作戦ですら逆手に取った手口も現れています。親族をかたり金銭を要求する電話がかかってきたあと、警察になりすました別の人物が電話をかけてきて、「最近不審な電話はありませんでしたか」と尋ねてくるのです。先ほどの電話のことを伝えると、だまされたふり作戦への協力を依頼されます。指示通りお金を用意して犯人との待ち合わせ場所へ向かうと警察官は現れず、そのままお金をだまし取られてしまうのです。
 多様化する詐欺に対し、警察や行政はさまざまな対策を提案していますが、それを上回るほどに巧妙化した新しい手口が次々と現れているため、万全な対策は難しいというのが現状です。

家の近所に潜む魔の手。悪徳商法にも要注意!

 身近な犯罪で注意すべきは、振り込め詐欺だけではありません。高額な商品を売りつける悪徳商法の被害や相談も増加しています。
 そのひとつは、「催眠商法」と呼ばれる集団心理を利用した手口です。キャンペーンをうたったチラシなどで特設会場に大勢の人を集め、食品や日用品をタダ同然の価格で販売します。たくさんの来場者を前に、「先に手を挙げた◯名様限定」といった巧みな話術で購買心をあおり、「今買わなければ損だ」と思わせるのです。そして、会場全体の雰囲気が最高潮に達したころを見計らって、高額商品の販売を開始します。来場者は会場の雰囲気にのまれ、正常な判断力を失っているため、つい購入してしまうのです。あとで冷静になって返品しようとしても、すでに会場はもぬけの殻になっています。

 短期間で判断力を奪う催眠商法に対し、時間をかけて信用させてから高額な商品を売りつける手口もあります。「サロン商法」とも呼ばれ、商店街の空きテナントなどで、「健康や生活に役立つ情報を無料で教える」といった看板で人を集めています。スタッフが日常の相談に乗ってくれたり、自宅まで送り迎えをしてくれたりと、非常に親切に接してくれるのです。来店者同士の交流も楽しく、まるで居心地の良いサロンのよう。やがて頻繁に通うようになると、「あなたにぴったりの商品がある」と、高額商品の購入を勧められます。すでにスタッフと客の関係を超えた親密な仲だと思い込まされているため、購入を断りにくく、必要がないのにもかかわらず商品を購入してしまうのです。
 こうした悪徳商法の被害者の多くは、人との交流が少ない一人暮らしの高齢者。本人がだまされていることに気付きにくく、指摘してくれる人も身近にいないため、そのまま放置してしまいやすいのです。さらに、「だましやすい人物リスト(通称カモリスト)」として個人情報が流出し、別の悪徳業者からも商品を売りつけられる「次々商法」に発展していくことも。被害者の中には、総額で数千万円分もの商品を購入させられた例もあります。

「自分は絶対に大丈夫」そんな人ほどだまされる

 こうした振り込め詐欺や悪徳商法の手口に、「そんな単純な手に自分は引っかかるはずがない」と思う方も多いと思います。しかし、これまでに紹介したものはほんの一例に過ぎません。詐欺犯や悪徳業者は、警戒心のある相手をだますために、新しい手口を次々と考えています。「自分は大丈夫だ」という慢心はかえって警戒心を緩め、相手に付け入る隙を与えかねません。
 とはいえ、いつも人を疑って過ごす必要はありません。普段は誰に対しても普通に接していればいいのです。注意すべきポイントは、多額のお金が絡む言葉。「お金が必要」、「高額な商品を買ってほしい」といったワードが出たときに、頭のスイッチを警戒モードに切り替えましょう。大切なのは、だましの手口に気付くアンテナです。

 次に、そのお金が本当に必要なものなのか、相手の名前や肩書きは本物なのかをしっかりと調べ、正体を見抜きましょう。たとえ親切にされたとしても、それはあなたをカモにするためのウソかもしれません。また、振り込め詐欺や悪徳商法では「今すぐに払わないと訴訟を起こす」、「今だけお得」などと、その場での判断を迫ってくることが頻繁にあります。誘惑や恐怖心からつい焦ってしまいますが、それでは相手の思うつぼ。ぐっと我慢して時間を稼ぎ、冷静さを取り戻しましょう。その隙に、家族や警察などに自分で連絡を取って相談するのがベストです。

 そして何よりも大切なのは、家族や友人と普段から頻繁にコミュニケーションをとっておくこと。自分一人ではだましの手口に気付けなくても、周りの人が見抜いてくれることがあります。誰かがだまされそうなとき、あなたが気付くこともあるでしょう。振り込め詐欺や悪徳商法への最大の防御は、家族や友人とのつながりなのです。

※記事内容は、執筆時点2020年8月1日のものです。

西田 公昭(にしだ きみあき)
立正大学心理学部対人・社会心理学科教授。日本脱カルト協会代表。詐欺や悪徳商法、カルトなどのマインド・コントロール研究の第一人者として知られる。著書に『マンガでわかる! 高齢者詐欺対策マニュアル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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