元気のバロメーター「健康診断」を読み解く
Vol.2血圧と血中脂質

多くの方が利用する健康診断。「体重が増えた」「今年はCがあった」など、何となく結果を見て終わりになっていませんか?健康診断の結果はきちんと読み解けば現在の体の状態を知ることができ、早めに対処することで将来の病気を予防できる重要なバロメーターです。今回はさまざまな原因で上がる「血圧」と、一緒に注意しておきたい「血中脂質」、さらに原因が重なることで進行する「動脈硬化」についてご紹介します。

監修:

近藤 慎太郎

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そもそも「血圧」って何?
高血圧には2種類ある

 まずは、「血圧」から読み解いていきましょう。
 生きていく上で欠かせない酸素や栄養素を運ぶ血液。これらが心臓の動きによって押し出され、全身を巡る際に血管にかかる圧力を血圧と呼んでいます。この血圧は、心臓に押し出される血液の量(心拍出量)と、血管内での流れやすさ(末梢血管抵抗)という2つの要素から成り立っています。
 よく上と下という表現をしますが、上とは最高血圧のことで、心臓が収縮し血液が送り出され、強い圧力が血管にかかっている状態の値です。反対に下とは最低血圧のことで心臓が拡張し、次に送り出す血液を溜めている状態の値を示しています。 これらの数値が最高血圧140mmHg以上または最低血圧90mmHg以上のとき、つまり常に高い圧力が血管にかかっている状態を「高血圧」と呼ぶのです。

■なぜ高血圧になるのか?
 原因はさまざま

 厚生労働省の統計(※1)によると、高血圧症の割合は年齢と共に上昇し、50代以上の男性と60代以上の女性の60%の人が高血圧となっています。
 高血圧には、ホルモンの分泌異常や薬剤の副作用など原因が明らかな「二次性高血圧」と、基礎疾患をもたず、いくつかの要因が重なって起こる「本態性高血圧」の2種類があります。
 8~9割は後者の「本態性高血圧」で、塩分の摂り過ぎ・肥満・過度に飲酒・運動不足・ストレス・喫煙・遺伝・加齢など、原因はさまざまです。なかでも、加齢に伴い血管の弾力性が失われてしまう「動脈硬化」は多くの高血圧の原因となっています。これは、髪の毛が年齢とともに白髪になるように、完全に避けるのは難しいことです。そのため、そのほかの原因を避けることで、高血圧そのもののリスクを下げることが必要です。

 特に日本人は塩分の摂り過ぎが大きな原因とされています。現在の日本人が摂取する1日の塩分量の平均量は約10g(※2)ですが、厚生労働省が定める目標量(※3)は、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満(食塩相当量)です。日頃から減塩を心がけるようにしましょう。

高血圧と合わさるとリスク大!
脂質異常症とは?

 動脈硬化による高血圧と併せて問題となるのが「脂質異常症」です。健康診断の結果表では、血中脂質(または脂質検査など)の項目で確認できます。
 すべての脂質は大切な役割を持っていますが、消費しきれない脂質が血液中に留まると「ドロドロ血」の状態になり、血液の流れが悪くなってしまいます。血液中に中性脂肪が多い状態、LDL(悪玉)コレステロールが多い状態、HDL(善玉)コレステロールが少ない状態を総称して「脂質異常症」といい、これが動脈硬化の進行を促し、さらにコレステロールが血管の内側に溜まっていき、血管を詰まらせて心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまうのです。健康診断で、特に気を付けたい項目といえます。

■コレステロールは運動では減らせない!
 食事を見直して脂質のコントロールを

 悪玉という名前のLDLコレステロールですが、ホルモンや細胞膜を作るなどの役割を持っており、健康的に生きていく上でなくてはならない存在です。しかし、ひとたび正常値を超えてしまうと、厄介者になってしまいます。しかも、血糖値や中性脂肪と違って運動をしても「LDLコレステロールが高い脂質異常」を改善することはできないのです。
 卵など高コレステロール食品の摂取量に注意が必要なのは確かですが、実はコレステロールは体内でも作られているため、摂取量の制限だけで100%コントロールすることは困難です。適量のコレステロール摂取に気を配りつつ、LDLコレステロールを下げる働きのある食物繊維や、青魚などEPA・DHAを多く含む食品を意識して摂ることで上昇を抑えましょう。
 特に血中脂質の項目でCと診断された方は食事の見直しが必要です。Dの判定を受けた方は、必ず再検査と治療を行いましょう。専門医と一緒に改善していけば、コレステロール値はコントロールすることが可能です。

コレステロールの高い食品
・鶏卵  ・魚卵 ・レバー
・ししゃも ・うなぎ ・イカ など

重大な病気にならないために
動脈硬化の進行を遅らせよう

  血圧の段でもお伝えしましたが、「動脈硬化」は大きな病気リスクの1つです。動脈硬化とは血管が硬くなり、弾力性が失われた状態のこと。進行すれば血管の内側にコレステロールが付着し、血管が狭くなって狭心症などの病気の原因になったり、血栓が生じて詰まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞など危険な病気の原因にもなります。
 これらの重大な病気にならないためにも、動脈硬化の進行を遅らせる必要があるのです。動脈硬化は喫煙・高血圧・脂質異常症・肥満・糖尿病・運動不足などの危険因子が重なることで進行しやすくなります。すべての要素が複合的に作用しあい、それぞれの状態を進行させていきます。
 数値として現れない動脈硬化の進行を遅らせるためにも、健康診断で血圧・血中脂質、そして前回ご説明した血糖値の項目を特に意識する必要があるのです。数値に異常がある、前年などと比べて高くなっている場合には、知らないうちに動脈硬化が進行している可能性があります。

 さらに、「高血糖・高血圧・脂質異常」のいずれか2つにあてはまり、腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上の状態を「メタボ(メタボリックシンドローム)」といいます。生活習慣病の一歩手前の状態で、動脈硬化が特に進行しやすい状態です。糖尿病、脳梗塞や心筋梗塞、脳卒中などの心血疾患、それによる死亡のリスクが約3倍になるといわれています。
 いずれも健康診断の値でセルフチェックができますので、健診で「血糖値・血圧・血中脂質」の項目がBだった方も昨年と値を見比べて変化しているところがないか、確認してみてください。上がっているようなら、早めの対策をしておくことをおすすめします。

まとめ
 血圧はさまざまな要素で上がっていき、加齢と共に複合して高血圧になってしまうことがあります。また、血中脂質が高くなると、血液がドロドロの状態になり、血管内に蓄積したり詰まりやすくなります。さらに、それぞれの要素が重なることで動脈硬化が進行し、脳梗塞・心筋梗塞など重大な病気のリスクも一緒に高まってしまいます。健康診断では軽度異常や要注意などの結果にかかわらず、前年と比べた数値で確認し、前年・前々年と比較して「血圧が高くなった」「血中脂質が増えてきた」ときは、たとえ基準値以下であっても早め早めの対処 を行っていきましょう。飲酒、喫煙の習慣を見直し、塩分・高コレステロールの食事を控え目にすることで改善できます。

参考:※1 厚生労働省「NIPPON DATA 2010」
※2 厚生労働省「令和元年「国民健康・栄養調査」
※3 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

※この記事内容は、執筆時点2023年11月8日のものです。

近藤 慎太郎(こんどう・しんたろう)
医師兼マンガ家。近藤しんたろうクリニック院長。日赤医療センターなどで勤務。北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部付属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任。消化器の専門医として、これまで数多くのがん患者を診療。近著に『ほんとは怖い健康診断のC・D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』 (日経BP社)などがある。

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