死亡者数は交通事故の4.2倍!
家庭内事故の防ぎ方

一見すると、身の危険がないように思える自宅の室内空間。しかし、実は命に関わる事故が頻発しています。特に、高齢者や小さな子どもの被害が多く、注意が必要。事故の事例・起こりやすい場所、対策方法をチェックしましょう。

監修:

井上 恵子

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死因トップ3は溺死、窒息、転倒・転落

 2018年度の交通事故による死亡者数は3532人(内閣府「道路交通事故の動向」)。対して、家庭内事故による死亡者数はどれくらいいるでしょうか?答えはなんと、1万4984人(厚生労働省「平成30年人口動態調査」)。交通事故による死亡者数の4.2倍にあたります。死因トップ3は、溺死(39.2%)、窒息(23.6%)、転倒・転落(16.6%)。年齢別で見ると、小さな子どもや高齢者が多くなっています。
 事故の内容を見ると、「溺死」の中で最も多いのは浴槽内での溺死です。ここには、高齢者が浴槽内でヒートショックを起こしたり、両親が目を離した隙に小さな子どもが溺れたりする事故が含まれています。
 「窒息」で最も多いのは、高齢者がお餅や果物などを詰まらせたり、小さな子どもがボタンや電池を誤飲したりする事故です。また、小さな子どもが嘔吐物を詰まらせたり、布団が顔に被さったりして窒息死するケースもあります。

 「転倒・転落」で最も多いのは、段差のない場所でのつまずきによる転倒です。身体能力の衰えた高齢者にとっては、こたつ布団や新聞紙など、ちょっとしたものでもつまずきの原因になります。このような事故は、階段からの転落よりも多いのです。

 他にも、熱湯などの高温物質への接触によるもの、火災や火災時の煙によるもの、ガスなどの有害物質の吸引によるものなど、さまざまな事故が報告されています。

冬場に起きやすいヒートショックを防ぐには?

 これらの家庭内事故の中でも、特に注意してほしいのが、高齢者のヒートショックです。ヒートショックとは、温度差による血圧の急上昇と、それによって引き起こされる心筋梗塞や脳出血などの症状のこと。浴槽内での溺死の大半は、ヒートショックだと考えられます。
 入浴の際は、暖かい部屋から寒い浴室へ移動し、そこからさらに熱い湯に浸かります。すると、急激に血圧が変化し、ヒートショックを引き起こします。浴槽の中で倒れてしまった場合、そのまま溺死してしまうこともあり、大変危険です。このような事故を防ぐために、暖房器具を設置して脱衣場を暖めたり、入浴前に浴室にシャワーをかけて暖めたりするなど、他の部屋との寒暖差を小さくする工夫をしましょう。

 また、夜中のトイレにも注意が必要です。日本の住居はトイレが北側に位置することが多く、住居によっては外気温と同じくらいまで室温が下がってしまいます。布団の中との寒暖差は思った以上に激しく、トイレへの移動中やトイレ内でヒートショックを起こしてしまう方も少なくありません。このような事故を防ぐために、ダウンジャケットなどの防寒着をベッド付近に準備し、トイレに行く際には必ず羽織るようにするとよいでしょう。

高齢者や子ども目線が家庭内事故を防ぐ

 家庭内事故はちょっとした心がけで防ぐことができます。しかし、そうはいっても事故の原因はなかなか予測しづらく、例えば、親が寝ている間にソファーによじのぼった子どもが窓から転落する、高齢者が自分の靴下につまずき階段から転倒するといった事故も発生しています。このような事故を防ぐには、あらかじめ原因自体を断つこともひとつの方法です。子どもに入ってほしくない場所には鍵をかけておいたり、階段を使わなくても生活できるようにしたりと、生活空間を見直してみてはいかがでしょうか?
 冒頭では死亡事例を取り上げましたが、死に至らない事故を含めると、さらに事故数は増加します。最近多いのは、強風でドアに押されて転倒してしまう事故。窓を開けたまま外出すると、帰宅してドアを開けたときに突風が吹き抜け、風圧で押されてしまいます。マンションなどの高い位置にある部屋で起きやすく、高齢者や子どもの場合は大事故につながる可能性も考えられます。このような事故を防ぐために大切なのは、高齢者や子ども目線に立ってもう一度生活環境を見直すこと。事故の原因は思わぬところに潜んでいるので、常日頃から住まいの環境を観察しておくようにしましょう。

※この記事内容は、執筆時点2020年8月1日のものです。

井上 恵子(いのうえ けいこ)
1級建築士。インテリアプランナー。2004年に住まいのアトリエ井上一級建築士事務所設立。保育園の設計・工事監理に加え、生活・住宅情報サイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナー講師などを務める。

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