わが子にとっての
「安全基地」を作る
子どものすこやかな成長を願いながらも、日々悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。この連載では「子どもの心を守る」をテーマに、幼少期から思春期までのお子さまとの向き合い方を小児科医の小澤美和先生にお伺いしました。全6回でお送りするシリーズ後半「思春期篇」。今回は、わが子にとっての「安全基地」についです。
思春期のわが子のベースになる
安全基地の役割とは?
思春期の子どもは親子間の関係性から外へ一歩踏み出し、社会に出ていくための練習を繰り返します。例えて言うなら冒険に出るようなものです。
このときに重要なのが、冒険から帰って休むための「安全基地」があるかどうか。安全基地で充電して、また次の冒険に出ていく。こうして冒険を重ねて経験値を積みながら自分だけの価値観が作り上げられ、やがては大人たちから教えられた道徳的な価値観とうまく融合できることが、思春期の後、大人になるための「自我同一性」の獲得に繋がっていきます。
変わらずに日々の生活を整えてくれる
その安心感が、安全基地になる
ではどうすれば安全基地を作れるのか。思春期の親子間ではどうしても感情的になったり、すれ違ったりするものです。親としては「こんなに一生懸命やってるのに全然言うことを聞いてくれない…」ということも多く、簡単に気持ちをコントロールできるものではないでしょう。
そこで、感情的にぶつかり合ったとしても「ああ、またやっちゃった…イヤになるわ…」と一旦クールダウンしたら、普段と変わらず、わが子の日々の生活を準備してあげることが大切になります。例えば、食事を作ってあげる、肌寒い夜に毛布を用意してあげる、学校帰りのわが子に「今日天気良かったからお布団干しておいたわよ」と声がけするなど、ほんの些細なことで大丈夫。
悩みを根本的に解決してあげる、といったハードルの高いものではありません。ケンカをした後でも変わらない生活を作る、その積み重ねが、子どもが安心できる場所=安全基地になるのです。ひいては親自身の心の落ち着きにも繋がります。
感情をコントロールするよりも、行動を変えることの方が簡単ですから、まずはちょっとしたアクションを心がけることから始めてみましょう。
思春期に起こる「不登校」と
安全基地の存在
不登校は、親にしてみればまるで病気のように思ってしまう部分もあるかと思います。ただ、あくまでも不登校は病気ではなく「状態」であり、その原因は100人いたら100通りあるものです。少なくともわが子は家に居るわけですから、目の前でわが子を知ることができるという意味では、最悪な状況ではないと考えることもできます。
肝心なのは、わが子がこの状況をどう受け止めているかに親が寄り添ってあげること。そして不登校の原因について、ネガティブな部分ばかりをピックアップして悩むのではなく、前向きに捉えられる部分を見つけてあげることです。例えば本人が「学校に行きたくない」と言っている場合なら、それを親に言えている時点である程度の関係は築けていると思います。
安全基地が機能していれば、わが子の健康もある程度保てていると思いますし、思春期のエネルギーも少しずつ充電されてくるはずです。学校に行くことを目前の目標にせず、わが子に向き合ってあげられるような環境を作ることで、次の一歩を踏み出せるようにしてあげたいですね。
よく相談を受けるパターンですね。毎朝何度も聞かれると、子どももそれがイヤになって朝起きなくなってしまったりするもの。そうすると、もう聞かれなくなるくらいの昼ごろにやっと起きてくるようになってしまいます。あまり横になってばかりいると自律神経に支障をきたして、おなかが痛くなったり立ちくらみをしたりと二次障害に繋がり、悪循環に陥るケースも考えられます。
例えば「じゃあ今日は休んで、明日は学校行こう」とか、それでも難しい場合は「3日間、家でゆっくりしよう。この日になったら行こうね」と言ってみることをおすすめします。
そしてその間は問い詰めないと決めて、起床・食事・少しの運動といったリズムのある生活を心掛けることにとどめ、ゆっくり休ませてあげてください。そうして、エネルギーを充電してあげたら登校しやすくなるのではないでしょうか。
※この記事内容は、執筆時点2022年1月26日のものです。
小澤 美和(おざわ みわ)
聖路加国際病院 小児総合医療センター 医長。子ども医療支援室 室長。AYAサバイバーシップセンター 副センター長。
病気の初めから終末期まで、病気になった親子を取り巻くがんに係る諸問題の第一人者。また、乳幼児健診や学校医として、健康な子どもも病気になった子どもも、その子なりの成長を支えるケアのスペシャリスト。看護師、保育士らと共にきょうだいレンジャーとして、病気のこどものきょうだい支援に取り組み、NPO法人グリーフサポートリンクと協働で開催する親と死別した子どもの集いや、子どもを亡くした親の自助グループの運用に携わっている。
親子に読んでもらいたい絵本「おかあさんだいじょうぶ」(小学館)共著。年数回、小学校~高校で「がん教育」を担当。小児科専門医/指導医、子どものこころ専門医/指導医。