介護は突然始まるもの
今からできる備えは?

介護経験のない方はもちろん、すでに介護をされている方にも是非ご覧いただきたいシリーズ「教えて介護」。最終回は、シリーズを監修していただいた阿久津美栄子氏のインタビューです。コロナ禍での介護の状況や、いざ介護が始まった時のために今から備えておくべきことついてお話をお伺いしました。

監修:

阿久津 美栄子

〉〉〉プロフィール

会えない、サービスが受けられない
追い詰められる介護

——コロナ禍は、介護の現場にも影響ありますか。

阿久津氏(以下、敬称略)
 施設や病院に入っている場合は、とにかく会えませんでした。例えば東京の場合、施設からは来ないでくれと言われます。会えるとしても2週間待機した後と、非常に厳しい条件が付いている状態で、ご家族の皆様はどうすれば良いのか悩まれていましたね。付き添いを入れ、施設から出してもらって外で会っているという話も聞きました。
 ご家族からすると、会えないまま死別したらどうしようという不安があったと思います。

——在宅介護の状況はどうでしょうか。

阿久津
 感染リスクを考えて、施設や通所デイサービスなどの利用を控え、家で頑張っているケースが多いですね。これまでサービスを利用していた分、抱えこんでしまっているので、非常に心配です。しかし、感染リスクが伴うことも事実で、軽々しくサービス利用すべきとは言いづらいですね。

 一方で、介護事業所の倒産も多くなってきました。利用者が減っているので当然です。事業者にとっても深刻な状況が生まれています。

IT活用はマスト
親が元気なうちに準備を

——ITが介護現場でも活躍していると聞きました。

阿久津
 皆さんいろんな工夫をされています。例えば施設であれば、アプリを活用して、1日何時から何時まではご家族とオンラインでつながる時間を作ったりしています。
 また高齢の親御さんに感染させないため、帰省しない方も多くいらっしゃると思います。その際のコミュニケーションもまたビデオ通話は有効な手段です。しかし、親御さんが自身で設定ができなかったり、通信環境が整っていなかったりします。一連のコロナによる混乱が終息しても、また別の理由で同じような状況が生まれるかもしれません。これからの時代、インターネット環境を整えておくことは必須です。

——使い方も教えておきたいですね。

阿久津
 しかも、「親が元気なうちに」です。私の場合、両親の介護は子育てがひと段落したあとぐらいになるのだろうという気持ちでいましたが、実際は子育て中の38歳の時でした。
 ほとんどの介護は突然始まります。「もう少し先のことだろう」「親はまだまだ元気」と誰しもが考えがちです。インターネットの環境を整えることも、ビデオ通話の使い方を教えることも、思い立ったらすぐにやってほしいと思います。

——先送りしないことが大事なんですね。

 何よりもやっておいて欲しいことが、「どういう介護を望んでいるのか」、「延命治療を望んでいるのかどうか」など、親としっかり話をしておくことです。
 最期はご家族が命の選択をしなくてはいけません。どういう選択をしても、やはり後悔が残るものです。だからこそ、親が元気なうちに、ご本人の考えを聞く機会を持ってください。ぜひ出来ることから始めてほしいと思います。

介護はマラソン
周りに協力を仰ごう

——最後に、現在介護を頑張っている皆さんにメッセージをいただけますか。

阿久津
 周りの人、専門家の人を頼ってほしいと思います。「自分しかいない」と気負って、疲弊してしまう人を何人も見てきました。往々にして責任感が強くて、まじめな方に多い気がします。しかし、介護する方が元気でなければ、要介護者も辛くなってしまいます。もし疲れている、精神的に追い詰められているのであれば、要介護者から一旦距離を取って、自分を守ってください。

 介護は短距離走ではありません。長く続くマラソンのようなものです。ただし、果てしなく続くものでもありません。第1回目の記事にあるように、介護にもロードマップがあり、いつか終わりが来ます。全く後悔のない介護はないかもしれませんが、最期の時間を思い出深いものにしていただければと思います。

——ありがとうございました。

全6回に渡ってお送りした「教えて介護」。いかがでしたでしょうか。
介護経験のない方だけでなく、現在介護をされている方にも、何かヒントになれば幸いです。

※この記事内容は、執筆時点2021年4月1日のものです。

阿久津 美栄子(あくつ みえこ)
1967年長野県生まれ。自身の介護経験からNPO法人UPTREEを立ち上げる。介護者のための「介護者手帳」を製作し、介護家族の支援モデルの確立に注力している。2019年4月「介護あっぷあっぷくん」(介護未経験者・初心者向に向けて介護の基本的な情報、介護保険の仕組み、介護に利用できる公共サービスなどを教えてくれるLINE公式アカウント)をリリース。著書に「ある日、突然始まる 後悔しないための介護ハンドブック」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「家族の介護で今できること」(同文書院)。

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