季節の不調を解消!
<12月 ウイルス性胃腸炎(感染性胃腸炎)>

つらい下痢や嘔吐、腹痛などの症状が出たときに、考えられる原因の一つとして挙げられるのが、ウイルスや細菌による感染性胃腸炎です。特にウイルスによる「ウイルス性胃腸炎」は11月から3月ごろにかけて流行するので、寒くなってきたら注意が必要です。このような季節性の病気や症状の原因、予防・対処法を専門の先生に教えてもらうこのシリーズ。今回は「ウイルス性胃腸炎」についてご紹介します。

監修:

森 勇磨

〉〉〉プロフィール

感染性胃腸炎
「ウイルス性」と「細菌性」の違い

 感染性胃腸炎は、 大きく「ウイルス性」と「細菌性」に分かれます。

 「ウイルス性胃腸炎」は、ウイルスを原因として発症する胃腸の炎症で、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルスやアデノウイルスなどがあります。「嘔吐下痢症」と呼ばれることもあり、特に11~3月あたりの寒い冬の季節に流行することが多い感染症です。

 「細菌性胃腸炎」は、カンピロバクターやO-157、黄色ブドウ球菌などの細菌が原因で、ウイルス性胃腸炎と似たような症状を引き起こします。一般的に「食中毒」と括られることが多く、特に暑い夏の季節にその発生率が高まる傾向があります。

冬に多い「ウイルス性胃腸炎」の症状と原因は?

 原因となるウイルスの種類にもよりますが、いずれも発症すると、下痢、嘔吐、腹痛などの症状が現われるほか、発熱をともなうこともあります。多くの場合、症状が1~2日程度続いた後に自然と治っていきます。ただし、免疫力が弱い子どもや高齢者は重症化することもあるため、注意が必要です。

 感染の主な経路は、ウイルスに汚染された食品を摂取することによる経口感染です。特に貝類が多く、汚染された二枚貝を生や加熱が不十分なまま食べることで感染します。
 また、人から人への感染もあります。ノロウイルスやロタウイルスは感染力が非常に強く、感染者が使用した後のトイレのドアノブに触れるだけでも感染が広がる可能性があります。このため、学校や職場などの集団生活の場は、感染が拡大しやすい環境となります。
 また、感染者の嘔吐物や便を処理する際に接触感染を引き起こすこともあります。

症状が出たら、セルフチェック!

 症状が出たときには、次の項目に当てはまるものがないか、セルフチェックをしてみましょう。当てはまるものが多い場合、ウイルス性胃腸炎の疑いがあるかもしれません。

「ウイルス性胃腸炎」の予防と対処法

 ウイルス性胃腸炎は、インフルエンザなどと異なり特効薬が存在せず、発症してしまった場合は対症療法が基本となります。ウイルスの種類によって感染後の経過は多少異なりますが、いずれも対処法は変わりません。

【予防】
●免疫力を維持する

 ノロウイルスやロタウイルスは感染力が非常に強く、完全に感染を防ぐのは難しいのが現実です。しかし、ウイルスに感染したとしても、必ずしもすべての人が発症するわけではありません。下痢、嘔吐、腹痛などのつらい症状が出やすいのは、睡眠不足や疲労の蓄積によって免疫力が低下している人です。そのため、十分な睡眠を取り、バランスの良い食事や適度な運動を心がけて、ウイルスに負けない体づくりをすることが予防の基本です。

 さらに、以下のポイントに注意して、ウイルスを生活環境に持ち込まないようにしましょう。

●手洗いを小まめにする

 日頃からしっかりと手洗いを行うことが大切です。特に以下のタイミングでは、最低15秒以上かけて洗うことを意識しましょう。

・トイレを使用した後 ・帰宅時 ・調理の前後 ・食事をする前

●食品はしっかり加熱する

 冬が旬の牡蠣は注意が必要な食材です。ノロウイルスが付着したプランクトンをエサとして取り込んだ牡蠣を生で食べたり、加熱が不十分な二枚貝を食べることによりヒトに感染します。
 ノロウイルスやロタウイルスを死滅させるためには、中心温度85℃から90℃で、90秒以上加熱する必要があるといわれています。ノロウイルスを完全に除去することは難しいため、免疫力が低下している場合は生食を避けることが無難でしょう。

●感染者との接触を避ける(感染を広げない)

 感染者のふん便や嘔吐物に接触しないように注意が必要です。ふん便や嘔吐物で汚れた衣類などを片付ける際には、使い捨ての手袋、マスク、エプロン、ペーパータオルなどを使用しましょう。ふき取った手袋などは、ビニール袋に入れ、消毒・密閉して廃棄してください。また、処理に使用した用具類などの消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤など)を活用しましょう。作業後は、必ず手洗い、うがいを行ってください。

【対処法】

 ウイルス性胃腸炎を発症すると、下痢により体内から水分がどんどん失われていきます。そのため、まず水分をしっかり補給し、最優先で脱水症状を防ぎましょう。スポーツドリンクや経口保水液が効果的です。

 嘔吐した直後は飲んだり食べたりせずに胃腸を休め、寝かせてあげると良いでしょう。吐き気が落ち着いてきたら、少量の水分補給(少量頻回)や、消化の良いおかゆやうどん、スープなど温かい食べ物を少しずつ食べるようにしましょう。脂っこいものやアルコール・カフェインは、当分は避けてください。通常1日から長くても2週間程度で、下痢や嘔吐、発熱の症状は治まります。

 子どもや高齢者は重症化する可能性があるので、経過を注意深く観察する必要があります。吐き気がひどく1日以上水分が取れていない場合は、速やかに病院を受診してください。

まとめ


ウイルス性胃腸炎は、ノロウイルスやロタウイルスなどを原因とする胃腸炎で、11~3月の冬季にかけて流行します。

主な症状は下痢、嘔吐、腹痛で、特効薬がないため予防が最も重要です。手洗いの徹底や食品の十分な加熱を行ってウイルスや菌を持ち込まないようにしましょう。また、感染しても発症しないようにするためには、規則正しい生活をして抵抗力を高めることが大切です。

発症してしまった場合は、まず絶食で胃腸を休め、小まめな水分補給と十分な休息を心がけます。感染者が家族に出た場合は、嘔吐物や排泄物を適切に処理し、周囲の衛生管理を徹底しましょう。

※この記事内容は、執筆時点2024年12月18日のものです。

森 勇磨(もり ゆうま)
ウチカラクリニック代表・Preventive Room株式会社代表・産業医・内科医・労働衛生コンサルタント
東海高校・神戸大学医学部医学科卒業。研修後、藤田医科大学病院の救急総合内科にて救命救急・病棟で勤務。救急現場での経験から、「病院の外」での正しい医療情報発信に対する社会課題を痛感し、YouTubeでの情報発信を決意。2020 年2月より「予防医学 ch/ 医師監修」をスタートし、現在チャンネル登録者は42万人を突破し、総再生回数は4000万回を超える。株式会社リコーの専属産業医として、予防医学の実践を経験後、独立。産業医としての「企業と人を健康にする予防医学」、さらには「従来の枠組みにとらわれず、病院の外でできるあらゆる予防医学」のアプローチに挑戦して、1人でも後悔する人を減らしたいという思いから、Preventive Room 株式会社を立ち上げる。現在はオンライン診療に完全対応したクリニック「ウチカラクリニック」を通じて、オンライン診療の適切な形での社会実装、セルフケアの推進に取り組んでいる。

TOPページに戻る