薬をもらうだけではない
薬剤師さんを活用して健康管理
医師の処方せんをもって薬局に行き、薬を調剤してもらったことがあると思いますが、薬剤師が何をする人かよくわからないという人は多いものです。しかし、服薬で不安なことや処方薬以外のことも相談でき、健康管理のアドバイザーになってくれます。またその際は「お薬手帳」もぜひ活用しましょう。くわしくご説明します。
知らないとソン薬剤師の役割
薬剤師には「薬の情報を提供する」「薬の服用歴を管理する」「疑義があれば医師に照会する(疑義照会)」「残った薬を調整する(残薬調整)」という基本的な役割があります。情報提供や服用歴管理は何となくイメージできると思いますが、あまり聞き慣れない「疑義照会」と「残薬調整」について、どういうものかをみていきます。
疑義照会とは、飲み合わせや用量など処方せんに疑問を持ったときに、薬剤師が交付した医師等に問い合わせることで、その疑わしい点を確かめた後でなければ、調剤してはいけないことになっています。
「平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書」によると、処方せん枚数ベースの疑義照会率は2.56%。疑義照会総件数のうち、薬学的疑義照会率は78.10%、薬学的疑義照会件数のうち、実際に処方が変更された割合は74.88%となっています。疑義発見の経緯は、「処方せんの内容により」が56.1%と最も多く、次いで「患者・家族等へのインタビュー(服薬指導)により」が42.4%です。
残薬調整とは、飲み切れなかった薬が患者の手元に残っている場合、薬剤服用歴の記録や残薬の外形状態・保管状況などを確認した上で、処方せんに記載された医薬品の数量を減らして調剤する業務のことです。
このとき、薬剤師は患者が飲み切れない理由を確認したうえで、効果は同じでも服用回数が少なくてすむ薬や、粉薬ではなく飲みやすい丸薬への変更などを医師に提案するケースもあります。
「お薬手帳」の使用と
「かかりつけ薬局」を持とう
薬剤師の役割を効果的に活用するには、「お薬手帳」の使用と信頼できる「かかりつけ薬局」を持つこととがポイントです。
お薬手帳は、処方せんを調剤薬局に持っていくとついてきますが、1冊持っていれば、全国どこの医療機関、薬局でも使えます。1人で何冊も持っているとチェック機能が働かないので、1冊に集約しておきましょう。
薬の名前、服用量と回数、飲み方、注意事項などを継続的に記録することで、複数の医療機関にかかっていても、飲み合わせのために副作用が起きるとか、他の薬の効果を消してしまうといったことが防げます。
自分で記入する基本情報は、住所、氏名、アレルギー歴、副作用歴、既往歴など。これら以外にも売薬(OTC医薬品)やサプリメントの服用歴、医師や薬剤師への質問事項や伝えたいことなどを記録しておくと、限られた診察時間等を有効に使えます。
現在は冊子タイプのお薬手帳が主流ですが、電子版のスマートフォンで管理できるタイプも使われています。まだ対応している薬局が限定的であることや、災害時の電力不足への懸念といった問題がありますが、今後は少しずつ解消していくものと思われます。
同じ処方せんでも薬局によって
値段が違うのはなぜ?
医療の価格と内容を決めているのが診療報酬点数です。薬に関しては調剤報酬点数(1点=10円)が定められており、国はこの点数を上げたり下げたり新設したりすることにより、望ましい方向に誘導しようとします。その結果、同じ処方せんであっても薬局によって値段が異なるといったことが起こっています。
処方せんをもって薬局に行き、薬を調剤してもらうと「調剤基本料」と「薬剤服用歴管理指導料(以下「管理指導料」)がかかります。
調剤基本料とは基本料金のようなもので、処方せんに基づく調剤を行うことに対して算定されるものです。薬局の規模や業務内容により、42点(患者負担130円)から16点(同50円)まで4段階に分類されており、大規模展開するチェーン薬局など、同一グループの処方せん受付回数の合計が多く、特定の医療機関の処方せんの集中率が高いほど、調剤基本料の点数は低く(料金が安く)なります。病院のすぐ近くにあるいわゆる門前薬局や、病院の敷地内にある門内薬局、医療モールなどがこれにあたります。
このような点数配分の背景には、患者の多くが門前薬局を利用している現状があり、国が目指す「かかりつけ薬局」が実現できていないという問題意識があります。
3ヶ月以内に、お薬手帳持参で
同じ薬局の利用だと安い
管理指導料とは、患者ごとに作成された薬剤服用歴に基づき、薬の飲み方や注意する点などの指導、薬についての情報提供を行うなどによって算定できるもので、43点(同130円)もしくは57点(同170円)です。
お薬手帳をもって、前回から3カ月以内に処方せんをもって同じ薬局に訪れた場合は43点ですが、それ以外は57点になります。これには、いくつもの薬局を利用するのではなく、同一の薬局を利用することを推進したいという意図があります。
つまり、薬局が患者にとって気軽に相談できる場となり、服薬情報の一元的・継続的把握や、それに基づく薬学的管理・指導を行うことを目指しているのです。
このため、いろいろと尋ねられて煩わしいかもしれませんが、お薬手帳を持参していれば、薬剤師とのやり取りがスムーズになりますので、ぜひ活用してください。
服用に関して不安があれば
まず薬剤師に相談
2020年4月から、重複投薬解消に対する取り組みを評価するために「服用薬剤調整支援料2」が新設されました。
複数の医療機関から6種類以上の内服薬が処方されている患者について、服用薬を一元的に把握し、重複投薬を解消するための提案や服用薬剤の一覧を含む報告書を作成して処方医に送付した場合、3カ月に1回を限度に100点(患者負担300円)を算定します。
複数の医療機関にかかっている場合、それぞれに薬が処方され、だんだん飲む量が増えてきて不安を感じる人は多いものです。しかし、患者は素人なので医師に対して言いづらいとか、忙しそうで切り出しにくいなど、不安を抱えたまま飲み続けたり、独断で飲むのをやめるケースもあります。
迷いや不安を抱えながら治療を受けても、あまり良い効果が得られるとは思えませんので、まずは薬の専門家である薬剤師に相談をして、適切なアドバイスを求めることが重要です。
いつも行く薬局で「私をかかりつけ薬剤師に」と言われるかもしれません。これは勤続年数など、所定の要件を満たした薬剤師を患者が指名する制度で、通常の料金より60円~100円を上乗せして支払うことになります。強制ではありませんので、十分に説明を聞き、必要性を判断してください。
注:文中の患者負担は自己負担割合3割として計算。10円未満は四捨五入。
※この記事内容は、執筆時点2020年7月31日のものです。
内藤 眞弓(ないとう まゆみ)
1956年生まれ。ファイナンシャルプランナー、株式会社生活設計塾クルー取締役。大手生命保険会社勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。主な著書は「医療保険はすぐやめなさい」(ダイヤモンド社)。日経マネー「生保損保業界ウォッチ」(日経BP)を隔月連載。