第3回ストレスとの上手な付き合い方

近年、仕事や人間関係などにおける不安やストレスに悩む人が増えています。ストレスは私たちの心や体にさまざまな影響を与えるため、溜めすぎないことが重要です。この記事では、全3回を通じてストレスに対する考え方をお伝えするとともに、ストレスを溜めず、上手に解消する方法をご紹介します。

監修:

山本 晴義

〉〉〉プロフィール

上手な自己表現で
ストレスの少ないコミュニケーションを

 ストレスへの抵抗力を高めるためには、困ったときに支え合えるサポーターの存在が大切であると、前回ご説明しました。一方で、人間関係がストレスの原因になることが多いのも事実。人間関係の悩みはコミュニケーションの悩みと言い換えることもできます。

 コミュニケーション方法の一つとして“アサーティブコミュニケーション”があります。アサーティブコミュニケーションとは、相手の考えをしっかりと尊重した上で、自分の感情や思いを抑圧することなく自己主張を行うこと。どちらかが気持ちを抑圧したり伝えたいことを我慢していたりすると、ストレスが高くなります。
 相手と対等な関係で向き合い、率直なコミュニケーションを図れるようにするためには、自分自身のコミュニケーションの傾向を知ることが大切です。
 コミュニケーションのタイプは、大きく3つに分かれます。

■アグレッシブ(攻撃的)

相手よりも自分の主張を優先したコミュニケーション。考えや意見が相手と異なると攻撃的になり、一方的に自分の主張を押し通そうとする傾向があります。 

■ノンアサーティブ(主張しない)

アグレッシブとは反対に受け身で、自分よりも相手の主張を優先したコミュニケーション。自己表現することが苦手で、自分の意見や感情を抑え込んでしまいます。

■アサーティブ(双方を尊重する)

自分と相手の双方を尊重したコミュニケーション。一方的に意見を押し付けたり、逆に受け身になったりすることなく、適切なコミュニケーションでお互いの意見を交わします。たとえ主張が食い違っても、感情的に反論せず、一度相手の意見を受け止め、自分の考えを丁寧に伝えます。

 ストレスを招きやすいのは、「アグレッシブ」と「ノンアサーティブ」。アグレッシブは自分の思い通りにいかない場合にストレスを感じやすく、ノンアサーティブは自分の気持ちや考えを押し殺すためにストレスが蓄積しやすい傾向にあります。
 一方、「アサーティブ」は、相手の意見を聞いて相手と良好な関係性を築きつつ、自分の気持ちや考えもきちんと伝えられるため、お互いにストレスを感じにくいのです。
 いきなり「アサーティブ」なコミュニケーションを実践するのは難しいと感じる方は、まず「ありがとう」や「ご苦労様」という言葉を意識するだけでも変わります。
 ねぎらいの言葉を積極的に相手に伝えるようにすると、相手にも自分にも肯定的になりやすくなります。「あなたに会えて嬉しい」「あなたのお役に立てて嬉しい」「最近こんなことが楽しかった」など、ポジティブな感情を伝えることも、コミュニケーションの潤滑油になります。

ストレスを溜めないための
「STRESS」習慣

 ストレスをその日のうちに解消し、溜めない習慣としておすすめなのは「STRESS」の頭文字を取った6つの習慣です。
 「頑張ってやろう」と意気込んでしまうと逆にストレスが溜まってしまうこともありますから、好きなこと、やりたいことから、“楽しんで”生活に取り入れるといいでしょう。

6つの「STRESS」習慣

■Sports(スポーツ)

気持ち良く汗をかく習慣をつくりましょう。勝敗にこだわりすぎるとかえってストレスになることもあるため、楽しく取り組めるものや、一人でもできるスポーツを選ぶのがおすすめです。

■Travel(旅)

忙しい日常生活から離れて、自然との触れ合いや、いつもとは違う景色を見るなどの機会をつくりましょう。

■Relax(くつろぐ)

深呼吸と腹式呼吸を意識し、緊張をやわらげます。休憩時間や仕事が終わった後の時間はゆったりと過ごしましょう。

■Eating(食べる)

美味しいものや好きなものを食べ、家族や友人などと楽しく食卓を囲む習慣をつくりましょう。

■Supporter(支援者)

お互いに支え、助け合えるサポーターをつくり、良い関係性を築きましょう。

■Speaking(話す), Smile(笑い), Sake(酒), Singing(歌う), Sleep(睡眠)

仲の良い友人と話したり、笑ったり、お酒を飲んだりと、ストレス解消は「楽しむ」ことが大事です。

前向きに捉える思考を
癖づけよう

 コミュニケーションや習慣と併せて身に付けておきたいのは、ポジティブな考え方。日頃からあらゆることを前向きに捉える癖をつけておけば、予想外のストレスに直面したときも、過度に落ち込むことがなくなります。下記は例ですが、憧れの人の考え方や好きな本からの言葉など、自分なりの捉え方を持っておくといいですね。

■ピンチはチャンス!チャンスはチャレンジ!チャレンジはサクセス!

ストレスを感じているときは、ピンチの状態にあるともいえます。ピンチに陥ったときは、「これは、ピンチから抜け出して新しい自分になるためのチャンスだ」と捉えるようにしましょう。チャンスはチャレンジにつながり、チャレンジは将来の成功(サクセス)につながります。

■他人と過去は変えられない。変えられるのはこれからの自分と今

人間関係でストレスを感じているときは、つい相手に変わってもらいたいと考えてしまいがちです。または過去の出来事を引きずっているために、ストレスから抜け出せないケースもあります。しかし他人と過去は変えることはできません。ただし、自分の考え方や今の生活習慣は心掛け次第で変えられます。そう割り切って、自分自身にフォーカスするようにしましょう。

■オンリーワンライフ

今生きているということはこれからも命が続くということ。そこに可能性を持つことが大事です。人生は一度きりしかなく、1日に使える時間は24時間しかないという事実は、すべての人に平等です。1日を大切に生きる「1日決算主義」がここで効果を発揮します。

身近な人が悩んだりストレスを感じたり
しているときはどうすればいい?

 身近な人から相談を受けたとき、どのようなスタンスで話を聴いたらいいでしょうか。聴く側の心構えのポイントをご紹介します。

■話を遮らない

相手の話を聴き、そのまま受け止めるだけでOK。相手は気持ちを吐き出し、受け止めてもらえるだけで、不安や葛藤が軽減していきます。ついつい、アドバイスや忠告をしたくなってしまいますが、話を遮ることは避けて、まずは聴くことに徹しましょう。

■受容していることを伝える

話を聴いているときには「うん、うん」「そうだね」などの相槌を打って話をきちんと聴いていることを表現しましょう。受容していることが伝わると、相手は安心できます。

■肯定的な言葉をかける

「お疲れさま」「私に話してくれて嬉しい」「ありがとう」など、肯定的な言葉をかけましょう。すると、相手は「人に頼ってもいいんだ」という気持ちになり安心できます。ネガティブな思考に留まるのではなく、ポジティブに前に進む気持ちを大切にしましょう。

■プライバシーに配慮する

相談された内容を、本人の許可なく他人に話さないようにしましょう。せっかく信頼して話してくれたことなのに、許可なく他人に伝わってしまえば、相手が傷つき、さらに追い込まれてしまう可能性があります。

まとめ
 今回は、ストレスを溜めにくくするコミュニケーションや考え方についてお伝えしました。実践すればすぐにストレスフリーになるというものではありません。しかし、意識して取り組むことで、次第に心に余裕が出てきて、周囲との関係や自分自身の生活に良い影響が出てくるでしょう。
 また、ストレスが大きい場合には自分だけで解決しようとするのではなく、上手に人に頼ることが大事です。ストレスの多い現代社会では特に人と人が支え合うことが欠かせません。悩みを相談できる良い人間関係を築き、前向きに人生を歩みましょう。

※この記事内容は、執筆時点2024年2月7日のものです。

山本 晴義(やまもと はるよし)
横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長。日本内科学会認定内科医、労災補償指導医、日本心身医学会心身医療「内科」専門医、日本心療内科学会専門医・指導医、日本精神神経学会専門医、社会医学系専門医心療内科医。2000年より同病院の社会奉仕活動として「勤労者 心のメール相談」を開始。24年間で18万件以上の相談に応えている。

TOPページに戻る