磨くのではなく“洗浄”する!
長生きするための「口内ケア」
国民病ともいわれている「歯周病」。放っておくと命に関わる危険性も。健康寿命を延ばすためにも「歯磨き」ではなく「正しい口内ケア」が大切です。
日本人の8割が歯周病
糖尿病や高血圧を招くことも
今や国民病といわれている「歯周病」。厚生労働省の調査では、「30代以降の日本人の約8割が歯周病である」という驚くべき結果が明らかになっています。歯が抜ける原因となる歯周病は、歯と歯茎の隙間にプラーク(歯垢)が蓄積し、その中に増え続ける細菌が原因となって歯肉炎症を起こす病気です。さらに、歯を支える骨を溶かすこともあります。
歯周病の恐ろしさは、歯が抜けることだけではありません。歯周病は万病の元といわれ、さまざまな病気のリスクを高めることが、近年の研究で明らかになっています。
歯周病は細菌が原因なので、放置しておくと血管を通じて歯周病菌が全身に送られてしまいます。また、口内が汚れていると洗浄機能が低下し、体内に病原菌が入りやすくなるため、インフルエンザや風邪などのリスクも高まります。高齢者は誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を患う可能性もあります。
さらに、歯周病は、命に関わる病を招くことも。歯周病になり食べ物をうまく噛めなくなると、柔らかい食べ物を好むようになります。噛む力もいっそう減り、食べた満足感を得られなくなることで、味の濃い食べ物を欲するようになります。これによって糖尿病、高血圧、脳卒中などを引き起こしやすくなるのです。このほか、歯周病と認知症の因果関係も指摘されています。
口は、人体における“玄関”のようなもの。「たかが歯周病」「歯の1本や2本、なくなっても大丈夫だろう」と油断していると、将来取り返しのつかない事態になってしまうのです。
歯ブラシは月に1回は交換する
歯ブラシを使ったらよく洗い、水をしっかり切り、できれば専用の殺菌スプレーをかけましょう。菌の繁殖を防ぐため、毛先が広がっていなくても月1回は交換してください。なお、2週間ほどで毛先が広がる場合は力を入れすぎている証拠です。
朝イチはぶくぶくうがいから
朝起きて口の中がネバネバしているのは、寝ている間に菌が増えているから。起床後はまずぶくぶくうがいをして、口内にたまった菌を吐き出してください。うがいなどのケアをせずに朝食をとるのは避けましょう。
食後はガムやタブレットを
食後にガムを噛むことで唾液の分泌が促進され、口内が除菌されます。特にリン酸カルシウムを含むガムには歯の再石灰化を促す効果があります。また、キシリトールを配合しているガムは、虫歯の原因となるミュータンス菌を減少させ、虫歯を抑制する働きがあります。乳酸菌が配合されたタブレットを食べるのもおすすめです。
歯をケアするベストタイミングは
人それぞれ
歯が欠けたり溶けたりしたことで歯の中層部(象牙質)が露出してしまった人は、歯を守るために食後30分以内はフロスや歯ブラシをあてることは避けてください。虫歯がある人、プラークが多い人は食後すぐに歯ブラシをあてて口内の菌が増えないようにしましょう。
1日1回舌ケアが常識
舌表面にも1億個/1mgの常在細菌が住みついています。
この中の歯周病菌・むし歯菌、他多数の悪玉菌が口臭だけではなく誤嚥性肺炎・風邪・インフルエンザの引き金になると言われています。
真ん中、右側、左側を奥から手前に計3か所掻き出す、たったこれだけです。
舌ケアグッズで白い汚れを優しくかき出してください。
防災グッズに歯ブラシを入れておく
災害時に避難所などで口内ケアができないと、虫歯や感染症のリスクが高まります。万が一に備えて、防災グッズには歯ブラシを入れておきましょう。また、水がなくても使える口内ケアグッズも販売されているので、店頭でチェックしてみてください。
「歯を磨く」のではなく
「口内洗浄」という意識をもつ
歯周病を防ぐためには、口内を清潔に保つことが重要です。これを聞いて、「私は毎日しっかりと歯磨きをしているから大丈夫」と思った方もいるでしょう。その磨き方が、歯の健康を損ねる原因になっているかもしれません。
実は、歯ブラシで表面をゴシゴシ磨くだけでは、歯周病の原因となるプラークをすべて取り除くことは不可能といわれています。なぜならば、歯ブラシだけでは歯全体の6割程度しか洗浄することができないからです。プラークが蓄積しやすいのは歯と歯の間、そして歯と歯茎の境目。しかし、歯ブラシの毛先はこれらの場所に届きません。これでは、プラークが口内に残ったままになり、菌が増殖してしまいます。
では、具体的にどのようにケアをすればよいのでしょうか。歯の隙間に詰まったプラークや食べカスを取り除くために活用したいのが、フロスや歯間ブラシ、ワンタフトブラシ(毛束の非常に小さいブラシ)です。歯ブラシを使う前に、まずフロスや歯間ブラシで汚れを取り除きます。これは、磨きすぎによって口内を傷つけるのを防ぐためです。
すべての歯間をケアしてから、歯ブラシに持ち替えます。ここで注意したいのが、歯ブラシには決して圧力を加えないこと。歯ブラシは軽く指に乗せるような感覚で持ち、毛先は歯にそっと触れる程度で問題ありません。「磨く」のではなく「歯に触れる」という感覚で十分です。ただし、歯のすみずみまで歯ブラシがあたっていることが重要なので、手鏡を使って位置や角度を確認しながら行いましょう。
また、歯は一本ずつ磨く意識が大切。「歯と歯茎の境目は歯ブラシを45度に」「歯の裏側は歯ブラシを縦にする」など、磨く位置によって歯ブラシの角度を変えましょう。菌が増えやすいのは主に就寝中の時間です。そのため、一日の中でも夜は入念にケアをしてください。
毎日の歯のケアに加えて数カ月に一度、歯科医院で定期健診を受診しましょう。歯石を取り除き、口内の状態をチェックするとともに、正しい歯のケアの方法を習得する機会として、積極的に活用してください。口内がきれいになることで健康になり、長生きにつながります。ケアを始めるのに「遅すぎる」ということはありません。さっそく今日から「歯磨き」を辞めて、正しい「口内ケア」を始めましょう。
※この記事内容は、執筆時点2020年8月1日のものです。
豊山 とえ子(とやま とえこ)
歯科衛生士。予防とメンテナンスの知識をもって、聖母歯科医院とパートナーシップを築く。歯科業界に向けて歯科医療や歯科経営のコンサルティングも行う。歯科学会、雑誌への寄稿多数。著書に『長生きしたけりゃ歯を磨いてはいけません』(SBクリエイティブ)などがある。