パート収入の増やし方
「130万円の壁」って?
家計を少しでも楽にするために、とパート勤務に出ている主婦にとって、世帯の手取り収入UPこそが最大の関心事といえるでしょう。そのとき、「扶養控除が…」や、「社会保険料が…」など、いくつかの「壁」に無関心ではいられません。どう働けばパート収入を増やせるのか、専門家に解説してもらいます。
「パート収入の壁」
おさえるべきは2つ!
2018年1月、ある番組の企画で「パート収入の壁」について解説したことがあり、都内のスーパーを訪ね、パートで働く女性たちと話をしました。その際に改めて感じたのは、手取り収入を少しでも増やしたいという切実な思いと、パート収入を増やすことの難しさでした。そうした現実を踏まえ、ここでは本当に必要な情報と、手取り収入を増やすためのポイントを紹介します。
まず、上の表を見てください。「パート収入の壁」がいくつも並んでいますが、この中で特におさえておきたいのは2つです。ピンク色で示した「夫の税金面の壁」と、黄色で示した「妻の社会保険料の壁」です。
「夫の税金面の壁」とは、妻が夫の税金面での扶養に入れるか(「配偶者控除」があるか)どうかの分岐点のことです。その分岐点が、長い間103万円だったため、「103万円の壁」と覚えている方も多いようですが、2018年1月に改正されて「150万円の壁」になりました。また、仮に「150万円の壁」を超えて働いたとしても、控除がすぐにゼロにならず「段階的」に減る仕組みなので、夫の手取りが一気に減ることはありません。
同様に100万円と103万円の壁の、妻に対しての住民税や所得税についても「少しずつ」かかるため、手取りが一気に減るわけではないので、特に気にする必要はないでしょう。
「妻の社会保険料の壁」こそ
パート主婦にとって重要な問題
一番重要な壁は、黄色の「妻の社会保険料の壁」です。130万円未満なら、会社員の夫の「社会保険の扶養」に入ることができ、保険料を払わなくてよいのですが、130万円以上になると夫の「社会保険の扶養」から抜けて、妻が自分で年金や健康保険の保険料を負担することになります。これが、「130万円の壁」です。
そして、2016年10月に、もう一つ「106万円の壁」というものができました。これは、パート先が従業員501人以上の企業で一定の要件を満たすパート勤務者の場合、年収106万円以上になると、その勤務先の企業の社会保険に入れるようになったためにできた新たな壁です。
まとめると、パート先が大企業なら106万円、中小企業なら130万円が、「妻の社会保険料の壁」になります。どちらの場合も、妻は年金や健康保険の保険料を年に15万~16万円くらい(約2カ月分の給料に当たる金額!)を払うことになり、手取りが大きく減ってしまいます。パート主婦にとっては非常に重要な問題ですから、この「妻の社会保険料の壁」はしっかりと覚えておいてください。そして、自分の壁が106万円なのか、130万円なのか、確認しておきましょう。
結局、どう働けば「働き損」を解消できるのか
壁を超えて働くと、額面のパート収入は増えても社会保険料支出の方がそれ以上にあるので、いわゆる「働き損」が発生します。しかし、パート収入をさらに増やせば、働き損は解消し、手取りを回復させることができます。
そのことを示しているのが、上の図です。上の図は「130万円の壁」の場合の試算ですが、「106万円の壁」でも同じようなグラフになります。手取りが回復する分岐点となるパート年収の目安は、「130万円の壁」の場合で約153万円、「106万円の壁」の場合で約125万円です。「妻の社会保険料の壁」とともに、この「手取りが回復する分岐点」もしっかりと理解しておきましょう。
―さて、ここから先が、パート主婦の皆さんにとっての考えどころです。今、ご説明した通り、1年単位で考えれば、壁を超えずに働いた方が得になることは確かです。しかし、もう少し長い期間で考えたときに、壁を超えない範囲で働き続けることが本当に得なことなのでしょうか?
私が提案したいのは、「『手取りが回復する分岐点』を超える働き方を目指そう」ということです。当たり前の話ですが、壁の手前でずっと働くよりも分岐点を超えて働いた方が、世帯の手取りは増えるのです。いつまでも壁の手前で立ち止まっているのではなく、分岐点を超える道を歩み始めることを考えてもいいのではないでしょうか。
さらに、少子高齢化が進む中、政府は、年金や健康保険制度を維持するために、厚生年金に加入するパート勤務者の適用を拡大することを検討しています。法律が成立すると、早ければ2021年から「106万円の壁」が「82万円の壁」に変わります。パートに出る人が増えることでしょう
そうしたことを考えると、世帯の手取り年収を着実に増やすために、早い時期から「社会保険料の壁」を超え、パート年収153万円以上、125万円以上を目指すことをおすすめします。その具体的な方策を下のMEMOにまとめました。ご自身の働き方を検討する参考にしてみてください。
※この記事内容は、執筆時点2019年8月1日のものです。
深田 晶恵(ふかた あきえ)
1967年生まれ。ファイナンシャルプランナー、株式会社生活設計塾クルー取締役。外資系電気メーカー勤務を経て、96年にファイナンシャルプランナーに転身。著書に『共働き夫婦のための「お金の教科書」』(講談社)など。