その住宅ローンが
老後の家計を圧迫するかも?

「退職金でなんとかなるだろう」こんな住宅ローンの返済は、いざ老後を迎えたとき、家計を圧迫する大きな火種となります。安心・安定した老後を送るためにも、繰り上げ返済やローンの見直し術を学び、戦略的に住宅ローンを返済しましょう。

監修:

深田 晶恵

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金利が史上最低水準の今はローン見直しの大チャンス

「35年の住宅ローンを完済するのは70歳。まあ、退職金でなんとかなるだろう」。こんな考えで月々の住宅ローンを返済している人は多いのではないでしょうか?しかし、20年後、あるいは30年後にもらえる退職金の金額をあらかじめ知ることは誰にもできません。未知数の金額の退職金をあてにして、収入が激減する定年後の収支を意識せず、いくら残っているかわからない住宅ローンを払い続ける。実に恐ろしい住宅ローンの落とし穴です。
 実際、下図のように、60歳以降には収入ダウンの崖が2回あります。1回目は、定年退職した60歳時点。再就職したとしても収入ダウンは免れず、65歳からの年金生活ではさらに収入が激減します。一方で、住宅ローンの返済額は固定。収入に対する支出の割合は増えるばかりで、貯蓄を切り崩した果てに……。まずは、安定した安心できる老後と住宅ローンが密接な関係にあることを認識してください。

「だったら繰り上げ返済して、早くローンを完済しよう!」。多くの人はまず、住宅ローンの見直し=繰り上げ返済をイメージするでしょう。確かに、繰り上げ返済によって60歳までにローンを完済するのは理想的だと言えます。ただし、あくまでも理想であって、貯蓄を取り崩してまで繰り上げ返済を行った結果、“繰り上げ返済貧乏”に陥ってしまう危険性もあります。特に、繰り上げ返済によってお子さんの教育資金が圧迫され、奨学金を借りざるを得なくなったら本末転倒。近年は入学費や授業料が高騰傾向にあるので、より注意が必要です。まずは教育資金をしっかりと確保した上で、今年は貯蓄→来年も貯蓄→再来年に繰り上げ返済といったように、家計のバランスを見ながら戦略的に返済時期を考えてください。

 頑張って十分な貯蓄ができれば、60歳になった時点でローンを見直すとよいでしょう。例えば、貯蓄した500万円を使って期間を短縮するか、返済額を軽減するか、下図の「繰り上げ返済のプラン例」を参考にしてみてください。
 繰り上げ返済をベースとした上で、住宅ローンの見直し術として挙げられるのが「ローンの借り換え」と「金利交渉」です。現在、住宅ローンの金利は史上最低水準。10年固定金利で1%前後の水準、全期間固定金利で1.5%前後です(2019年6月時点)。金利2%以上で借りている人にとっては、まさにローンを見直す絶好のタイミングなのです。

ローンの借り換え

 ローンの借り換えとは、より金利の低い銀行のローンに借り換え、現在借りている銀行に一括返済すること。ローンの総返済額が減るので、「借り換えをすると毎月2万円おトク!」といった見出しと共に宣伝されています。ただし、ここが落とし穴! 例えば、月々の返済額が10万円から9万円に減りますが、返済期間は変わらないため、結果的には60歳以降まで負担を残すことになります。大切なのは、低金利のローンに借り換えた上で、現在の返済額である10万円をキープする、あるいは10万5千円などにアップし、返済期間を短縮すること。そうすれば繰り上げ返済と同じ効果があり、60歳以降の負担が軽くなり、総返済額も減るのでぐっと楽になります。
 現在は史上最低金利なので、借り換え時は変動金利ではなく、10年固定金利か全期間固定金利を選びましょう。

金利交渉

 他の銀行に乗り換えるローンの借り換えに対し、金利交渉は今借りている銀行に「金利を引き下げてほしい」とお願いすることです。銀行が金利交渉に応じることは当初のルールを変えることなので、言わば〝禁断のウルトラC〟。以前なら考えられなかった見直し術ですが、史上最低金利で銀行間の競争が激しくなったため、近年、金利交渉に応じる銀行が増えています。
 ただし、借り手が優位な状況だからと言って、「金利を引き下げてほしい」「はい、わかりました」と銀行側が簡単に応じてくれるとは限りません。他行で借り換えた場合の試算表を見せないと交渉に応じてくれない銀行もありますし、過去に残高不足で口座引き落としが滞ったことがある場合もマイナス要素。「最近、収入が減ったので返済額を下げてほしい」といったネガティブな交渉の仕方もNGです。また、金利交渉が成功した場合でも、ローンの借り換えと同じように、返済期間を短縮するように努力しましょう。

 では、ローンの借り換えと金利交渉、どちらを選ぶべきか? この2つの見直し術にはそれぞれメリットとデメリットがありますので、上図「借り換えと金利交渉 どちらがおトク?」を参考に、どちらが自分にとってメリットがあるか、今の返済方法を変えるかなど、トータルで判断してみてください。
 定年退職後に住宅ローンの重圧に悩まされないように、金利が史上最低水準の今こそ、早めのアクションを起こしましょう。

※記事内容は、執筆時点2019年8月1日のものです。

深田 晶恵(ふかた あきえ)
1967年生まれ。ファイナンシャルプランナー、株式会社生活設計塾クルー取締役。外資系電気メーカー勤務を経て、96年にファイナンシャルプランナーに転身。著書に『共働き夫婦のための「お金の教科書」』(講談社)など。

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