健康長寿の鍵を握る!
歯と口のセルフケア 第2回
虫歯・歯周病を予防する

口の機能を正常に保つことは「心身の健康」に欠かせないことです。食べたいものが食べられないと、心身ともに弱っていってしまいます。そうならないためには、口内環境のチェックとセルフケアが重要です。第2回目となる今回は、子どもから大人までつきまとう「虫歯・歯周病」を予防する大切なセルフケアの方法をご紹介します。

監修:

森下 真紀

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日本人の多くは
口内ケアがうまくできてない!

 いつまでも健康な口内を実現するために、立ち塞がるのが、「虫歯」と「歯周病」です。虫歯は20歳以上の約90%が罹患、歯周病は30歳以上の約80%が罹患(または予備群)しているといわれています。

 虫歯菌や歯周病菌の多くは、食べ物の残りカスを分解して、わずか数時間後にプラーク(歯垢)を形成します。プラークは歯に付着した菌の塊で、一度形成されてしまうと、うがいによるすすぎ程度では落としきることができません。そのため、しっかりと歯を磨いてプラークを取り除かないと、虫歯や歯周病ができてしまう(進行してしまう)という状態になるのです。さらにこのプラークを放置すると、2~3日で石灰化し歯石になります。歯石になると自分では取り除くことはできません。

 そうならないためにも、食事のかすはもちろん、プラークを除去するためにも毎日の歯みがきなどの口内ケアが重要になるのですが、日本人の口内ケアは、十分にできていない状況です。そもそも、歯磨きは、単に歯自体を磨くのではなく、歯と歯茎の間や歯と歯の間のプラークを取り除くために行うものです。そのため、歯と歯茎の間に歯ブラシの毛先を向けて磨くことが大切になります。また、歯みがきと併せて歯間ブラシやデンタルフロスなどを使ってケアをすれば、約9割のプラークを除去できるのですが、毎日使っている人はまだまだ少数です。
 虫歯・歯周病予防のためにも、食事ごとの口内ケアを習慣化しましょう。正しく口内ケアを行うためには、道具選びが大切です。次の解説を参考に、自分に合った道具を見つけてみましょう。

■口内ケアを正しく行う道具選び

●歯ブラシ

・ヘッドは小さく薄いもの
・毛の硬さは「ふつうタイプ」、痛みがあれば「やわらかいタイプ」
・毛先が細いものなら歯と歯ぐきの境目にアプローチしやすい

※毛の「かため」タイプはプラーク除去能力は高いのですが、歯や歯ぐきに傷がつく恐れがあるので推奨していません。

 ヘッドの本体が薄く、毛束が小さいものであれば奥歯までスムーズに届きやすく、歯の1本1本を丁寧にみがくことができます。また毛の硬さはプラークをきちんと落とせる「ふつうタイプ」をおすすめしますが、出血や痛みがある場合は「やわらかいタイプ」を選んでください。やわらかいタイプはプラークの除去能力がふつうタイプよりも弱くなるため、より細かなブラッシングが必要になります。そして、毛先が細くなっているタイプであれば、プラークが溜まりやすい歯と歯ぐきの境目へ的確にアプローチできます。

 また、毛先が開いてきてしまったら買い換えのタイミングです。1ヵ月に1本を目安に交換しましょう。

・斜め45°で当てると、歯と歯ぐきの間にアプローチしやすい

 歯に対して斜め45°で当てると、歯と歯ぐきの境目に毛先が入りやすくなります。ただし、強く押しつけると、歯や歯ぐきを傷つける原因となるので、表面に毛先が触れているくらいが丁度良い力加減です。

●歯間ブラシ・デンタルフロス

 歯の間に肉などの繊維質なものが挟まるようになったら、加齢や歯周病の進行により歯ぐきがやせてきたサインです。歯ブラシにプラスして、歯間ケアも意識しましょう。
 歯間ケアの道具には、ブラシ状の「歯間ブラシ」と糸状の「デンタルフロス」の2種類があります。
 実際に使ってみて自分の歯に合うもの、続けやすいものを選びましょう。

歯間ブラシ

・歯の根元と隙間をケア
・ゴムタイプは初心者でも使いやすい

・痛みなく歯間に入り、強く引っ張らなくてもスポッと抜けるのが丁度良いサイズ
 ※サイズが分からないときは歯科医に相談しましょう。

デンタルフロス

・ブラシが入らない歯と歯の間をケア
・ようじタイプは初心者向け

・糸タイプは上級者向けで、大容量なので経済的

●歯みがき粉

 乳歯が生え始めの生後8か月~12、3歳くらいの永久歯に生え替わってすぐのお子さんは、歯にフッ素が入りやすい状態なので、虫歯予防になるフッ素配合の歯みがき粉がおすすめです。子どもの口に長くフッ素が留まるように、すすぎの際の水はごく少量で問題ありません。(商品によってはすすぎなしのタイプもあります)
 大人の場合は歯周病ケアを意識して、殺菌タイプを使用すれば、歯周病から虫歯への進行を予防することができます。

●液体口内ケア製品

 液体口内ケア製品には「マウスウォッシュ(洗口液)」と「デンタルリンス(液体歯みがき)」の2種類があります。
 どちらも歯みがきとセットで使用することを想定されているので、歯みがきの代用として使わないようにしましょう。

マウスウォッシュ(洗口液)

・歯みがきの補助として歯みがき直後やまたはすぐに歯みがきができないときに使用する
・歯の表面やプラークに付着して殺菌して口臭予防に

デンタルリンス(液体歯みがき)

・液体を含んだまま(または吐き出してから)歯ブラシでブラッシングして使う
・研磨剤不使用なので、歯や歯ぐきにやさしい
・殺菌効果が歯みがき粉にくらべて長く続く

※「洗口液」「液体歯みがき」の記載は商品裏面に書いてあります。使用方法はメーカーにより異なりますので、正しく使ってください。

■歯みがきのタイミングは?

 食事のあと、口の中の菌はどんどん活発になり増えていきます。菌の増殖を防ぐためにも、食後なるべく早めに歯みがきを行いましょう。特に就寝時は口の中の菌が増えやすくなりますので、夜の歯磨きは歯間ブラシやデンタルフロスを併用し、念入りに行うことが大切です。

まとめ
日本人の約90%は虫歯、約80%が歯周病に罹患しており、その原因は口内ケア不足だと考えられます。1日2回、特に夕食後の歯みがきは念入りに、歯間ブラシやデンタルフロスなどを上手に活用しましょう。大人の口腔ケアは日々溜まってしまうプラークを少しでも早く、余すところなく除去することが重要です。しかし、セルフケアには限界がありますので、3か月~半年に1回は歯科医の定期健診を受けるようにしましょう。

次回は、「知られざる「唾液」のちから」についてご紹介します。

※この記事内容は、執筆時点2024年8月7日のものです。

参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「大人のむし歯の特徴と有病状況」
「歯周疾患の有病状況」

森下 真紀(もりした まき)
東京医科歯科大学歯学部歯学科を首席卒業。英国キングスカレッジ歯学部留学、東京医科歯科大学大学院にて博士号取得。日本学術振興会特別研究員(DC2)。都内、千葉県内の歯科医院での診療に加え、企業と口臭対策や歯周病対策でコラボするなど、「日本を世界一の歯科先進国へ」をミッションとして掲げ、歯科業界の発展に貢献すべく活動を行っている。ダイヤモンドオンラインにて、ビジネスマン向けに歯科や口臭に関するコラムを連載中です。

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