健康長寿の鍵を握る!
歯と口のセルフケア
第1回 口の老化を防ぐ

口の機能を正常に保つことは「心身の健康」に欠かせないことです。食べたいものが食べられないと、心身ともに弱っていってしまいます。そうならないためには、口内環境のチェックとセルフケアが重要です。シリーズ第1回目となる今回は、自分の「口の健康状態」のチェック方法と、今日からできるセルフケアの方法をご紹介します。

監修:

森下 真紀

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いつまでも元気でいたいから
口の健康を見直そう

 いつまでも元気で生きていくために近年重要視されているのは、機能する歯を維持することです。厚生労働省では「80歳になっても20本以上の歯を保つ」という「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」の呼びかけを行っています。
 これは機能する歯(全く治療していない歯に加えて、詰め物をした歯やかぶせものをしている歯・差し歯も含む)が、20本以上あれば硬い物でも咀しゃくができて食生活に支障をきたさないとされる数です。80歳になって20本以下の歯しかなく、義歯なども使用していなかった層と比較した際、認知症発症率が最大1.9倍※1、転倒リスクは2.5倍※2になることが分かっています。

 認知症や転倒からの寝たきりにならず、健康的に年齢を重ねていくためには、「フレイル」にならないことが大切です。これは近年広まってきている心身の状態を指す言葉で、「高齢になり心身が衰えた」要介護と健康の中間の状態です。
 なかでも、口の機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、全身のフレイルにならないためにも重要だと考えられています。
 例えば、歯周病や虫歯といったトラブルを放置して痛みや噛みにくさがある場合では、硬くて食べにくいものを避けるようになります。この状態が長期間続くと、口の機能(噛む・食べる・話す・表情をつくるなど)は徐々に衰え、オーラルフレイルになってしまうのです。
 そして「噛めないこと」で「やわらかいもの」だけを選んで食べるようになり、「噛む機能が徐々に低下」して、結果「食べる量が減っていく」という負の連鎖に陥ってしまいます。こうなると徐々に、栄養不足や筋力の低下など、全身の機能が低下していくのです。この状態にならないようセルフケアすることで、結果的に将来の病気や認知症を防ぐことができます。

機能低下への負の連鎖

■セルフチェックをしてみよう!

 では、口の機能を正常に保つためにはどんなことをすれば良いのでしょうか?そのためには、自分の口の健康状態を知る必要があります。次のチェックリストでまずはセルフチェックをしてみましょう。

Q 質問事項に「はい・いいえ」で回答し、記載されている点数を合計しましょう。

 合計点数でオーラルフレイルのリスクを確認できます。
 点数が高いほど、「オーラルフレイル」の危険性がある状態です。歯科医院に相談するなど、すぐに対策を行いましょう。

オーラルフレイルを回避する
今すぐ行いたい対策

① まずは自分の口の状態に関心を持つ

 口の健康は全身の健康と関係しています。まずは自分の口の状態を確認してみてください。硬いものでも問題なく食べられるか、食事の際にむせることはないか、食べこぼすことが増えてないか、痛み・腫れ・出血はないか、冷たい物は沁みないかなど、食事をするとき飲み物を飲むときに注意してみましょう。

② 口の中を清潔に保つ

 1日3回の食事後に歯磨きは重要です。また、最低でも1日に1回は歯間ブラシ、フロスなどを使い歯間ケアも行いましょう。すぐに歯磨きを行えない場合は、殺菌できるタイプの口腔洗浄剤や水で30秒以上のすすぎをおすすめします。

③ 食事はよく噛む

 日々の食事で速食いや、やわらかいものだけの食事は咀しゃく回数の低下に繋がります。1口30回程度、よく噛むだけで、オーラルフレイルの予防効果があります。

 これらの対策に年齢は関係ありません。子どもの頃から継続することで、将来のオーラルフレイルの予防効果は高まります。また、定期的な歯科検診に行くことで、痛みのない初期の虫歯なども予防できます。
 オーラルフレイルの可能性がある方は、そのまま放置しておくと、年齢や病気など多くの要因の影響もありさまざまなリスクが高まっています。近い将来の全身の衰えを知らせてくれるサインだと考え、治療をして、義歯を入れるなどの適切な対応を取るように心がけましょう。

まとめ
健康的な歯を保つことで、認知症や転倒リスクを下げることができます。放置してしまうことで、高齢になり心身が衰えた状態「オーラルフレイル」になってしまいます。歯の生え始めた子どもの時期から、シニアまで定期的な歯科検診を行いましょう。ぜひ半年に1回(最低でも1年に1回)のがおすすめです。

次回は「虫歯・歯周病の予防」についてご紹介します。

※この記事内容は、執筆時点2024年7月10日のものです。

参考:※1 Yamamoto et al., Psychosomatic Medicine, 2012
※2Yamamoto et al.,BMJ Open.2:e001262,2012

森下 真紀(もりした まき)
東京医科歯科大学歯学部歯学科を首席卒業。英国キングスカレッジ歯学部留学、東京医科歯科大学大学院にて博士号取得。日本学術振興会特別研究員(DC2)。都内、千葉県内の歯科医院での診療に加え、企業と口臭対策や歯周病対策でコラボするなど、「日本を世界一の歯科先進国へ」をミッションとして掲げ、歯科業界の発展に貢献すべく活動を行っている。ダイヤモンドオンラインにて、ビジネスマン向けに歯科や口臭に関するコラムを連載中です。

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