元気のバロメーター
「健康診断」を読み解く
Vol.1 血糖値

多くの方が利用する健康診断。「体重が増えた」「今年はCがあった」など、何となく結果を見て終わりになっていませんか?健康診断の結果はきちんと読み解けば現在の体の状態を知ることができ、早めに対処することで将来の病気を予防できる重要なバロメーターです。今回はその中でも多くの生活習慣病の要因となる「血糖値」についてご紹介します。

監修:

近藤 慎太郎

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健康診断の「判定」はとても重要な指標


 まず健康診断の結果表がある方は、お手元に準備してみましょう。検査項目、診断結果の数値、基準範囲、判定の記載があると思います。注目したいのは、判定の内容です。
 それぞれ「A=異常なし」「B=軽度異常(経過観察)」「C=要再検査(生活改善)」「D=要精密検査(治療)」「E=治療中」を意味します(※)。
 A~Bの数値なら、正常~やや正常値より高い(または低い)状態を指し、まだ大きな問題はありません。ただし、Cなら要注意、Dなら医療機関での診察・治療を要する状態ということになります。判定結果を真摯に受け止めて、BやC判定なら生活習慣を見直し、Dにならないようにしてください。

※これらの判定区分はそれぞれの診断施設により表示が異なります。
詳細は診断結果に記載の「判定区分」をご確認ください。

なぜ数値が高くなる?
「血糖値」とはどんなもの?

 第1回目となる今回は「血糖値」についてご説明します。「血糖値が高いと糖尿病になるんでしょ?」と思われるかもしれませんが、実はそれだけではありません。肥満や脂質異常、動脈硬化、それに伴う心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気へと繋がる万病の元なのです。

 血糖値とは、血液中の「ブドウ糖(グルコース)」の濃度を示しています。パンや米といった「炭水化物(糖質)」が体内で消化・分解されることでブドウ糖となり、腸から吸収され、血液に入りこみます。このように食前と食後では血糖値が変化するので、血糖値を正しく測るためには、健康診断前に10時間の絶食をする必要があるのです。

■ブドウ糖は体を動かすエネルギー源
 ただし、過剰摂取は病気のもと

 このようにブドウ糖は体のエネルギーとなるものです。ところが、細胞は鍵がかかった部屋のように閉じた組織なので、自らブドウ糖を取り込むことができません。そのために必要なのが、膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」です。
 食後に血糖値が上昇すると分泌され、普段は閉じている細胞をインスリンが鍵となり、血液中のブドウ糖を細胞に取り込むように働きかけます。このインスリンの働きにより、ブドウ糖は体を動かすためのエネルギーとして消費され、血糖値が下がるのです。

 しかし、炭水化物や砂糖などの糖類を過剰に摂ると、エネルギーとして消費しきれずにブドウ糖が余ってしまいます。この余剰分は緊急時に備えて、大きく2種類の物質に合成され体内に貯蓄されます。その1つが筋肉などに貯蓄される「グリコーゲン」。これは激しい運動時や空腹時に、血液中のブドウ糖が不足した場合、即座にエネルギーとして利用されます。
 そしてもう1つが、皮下や内臓周辺の脂肪細胞に貯蓄される中性脂肪」です。中性脂肪は血液中のブドウ糖が不足し、さらにグリコーゲンを使用してもエネルギーが不足した緊急時に使用されます。
 困ったことに、中性脂肪が消費されるのは一番最後です。ブドウ糖は現金、グリコーゲンは貯金、中性脂肪は定期預金と考えれば、いかに使われにくい貯蓄なのかが分かるでしょう。つまりブドウ糖はエネルギーとして必須の栄養素ですが、摂り過ぎると脂肪になりやすく消費しにくい栄養素になるのです。

■高血糖には中性脂肪の増加や
 大きな病気が隠れている可能性も?

 消費しきれないブドウ糖が血液中に多い状態を「高血糖」といいます。実は、血糖値を上げるホルモンは複数あるのですが、下げるホルモンはインスリンのみ。食後2時間を過ぎても血糖値の値が高い場合、インスリンの分泌が少なくなっていたり、働きが不十分であることが考えらます。その場合、糖尿病・またはその予備群の可能性があります。
 また、前述したように「血糖値が高い状態」は中性脂肪も多く作られることになり、肥満になりやすく、動脈硬化になっている可能性が高いことを示しています。そのため、このまま対策をせずにいると、脳卒中や心筋梗塞を引き起こす可能性があるのです。あなたの血糖値はどこに区分されるか、実際に下の表と健康診断の結果を確認してみましょう。

「要注意」は赤信号!
早めの対策で病気を予防しよう

 それでは、血糖値の判定がB~Cになった場合、どのように対策すればいいのでしょうか?
 それは「食事の改善」です。血糖値は食事と密接に関係しているので、食べるものを取捨選択すれば、血糖値を下げる手助けになります。

 一般的に炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質を「三大栄養素」といいます。生きる上で欠かすことができない栄養素で、炭水化物はその中の一つ。いきなり「お米やパンを食べません!」と極端な糖質制限を行うのは難しいですし、すぐに挫折してしまう方が多いのではないでしょうか。
 例えば、腹八分目を意識し、炭水化物の摂取量を減らす所から始めてみましょう。また、たっぷりと糖類が含まれる清涼飲料水(エナジードリンク、濃縮還元ジュース)などの甘い飲み物やお菓子などを減らすことも、摂取する糖質・糖類を減らすことに有効です。

 さらに、穀物・海藻・豆・キノコ・野菜・果物などに多く含まれる食物繊維を多く摂るように心掛けましょう。食物繊維は人間には消化が難しい栄養素のため、炭水化物を減らした食事でも満足感を得られるはずです。
 糖質制限やダイエットをする方は、たんぱく質を減らさないようにしましょう。たんぱく質は筋肉を動かし、細胞を増やすエネルギーとなります。糖質を制限すると筋肉からグリコーゲンを取り出して使用するため、筋肉が痩せてしまうことがあります。筋肉量が減ると消費するエネルギー量も減ってしまうのです。糖質を減らした分はたんぱく質で補ってあげましょう。

食物繊維・たんぱく質

まとめ
 血糖値が高くなると、糖尿病だけでなく、肥満や脂質異常、動脈硬化、それに伴う心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気へと繋がる可能性があります。健康診断で「要注意」の判定が出た場合は、食生活を見直し、改善しましょう。腹八分目を意識して、甘い物の摂取を控えることも効果的です。その際は、食物繊維やたんぱく質をしっかりと摂ることを意識しましょう。

参考:横浜医療センター「健康診断の判定区分」

※この記事内容は、執筆時点2023年9月20日のものです。

近藤 慎太郎(こんどう・しんたろう)
医師兼マンガ家。近藤しんたろうクリニック院長。日赤医療センターなどで勤務。北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部付属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任。消化器の専門医として、これまで数多くのがん患者を診療。近著に『ほんとは怖い健康診断のC・D判定 医者がマンガで教える生活習慣病のウソ・ホント』 (日経BP社)などがある。

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