大災害は、明日起きるかもしれない
今すぐ備えることが大切です

私たちが生活している日本では、さまざまな災害が発生します。地震、豪雨による洪水や土砂災害、噴火や豪雪、そして感染症。皆さんの災害への備えは、果たして万全でしょうか?今すぐ防災対策を行うことの重要性を、防災システム研究所の山村武彦先生に伺いました。
◇インタビュー◇ 防災システム研究所所長 山村 武彦 氏

「正常性バイアス」により「大丈夫」と思いこむ怖さ

 2011年の東日本大震災以降も2016年熊本地震、2019年の令和元年東日本台風、2020年7月豪雨など自然災害が頻発しているため、国民の防災意識は向上してきたといわれています。しかし、最近の災害は東日本大震災と比べるとさほど大規模ではなかったこともあって、皆さんの防災への意識はそこまで高まっていないのでは、というのが私の実感です。もちろん被災地域にとっては大変な災害でしたが、被災地域外の人にとっては「他人事」であり「私は大丈夫」と思い込んでいる人も多く見受けられます。

 しかし、大規模災害はいつ起こってもおかしくない状況です。南海トラフ巨大地震の発生確率は向こう30年以内に70〜80%。首都直下地震は30年以内に70%の確率で発生すると言われています。また千島海溝(根室沖)で巨大地震が発生する確率は向こう30年以内に80%程度。日本海溝(宮城県沖陸寄り・M7.4前後)地震は向こう30年以内の発生確率が70~80%(地震調査研究推進本部・2023年1月1日現在)。しかも、どれもが太平洋沿岸に大津波が襲来する可能性が極めて高いとされています。
 「30年以内なら、ずっと先だろう」と思う人は多いでしょう。しかしこの「30年以内」というのは30年目に起きるということではなく、今すぐ起こる確率でもあるのです。例えば、「降水確率70〜80%」と言われたら、外出の際には必ず傘を持って出るのではないでしょうか。これが地震だとなんとなく「まだ先だろう」と思ってしまうのはなぜなのでしょう?
 これは、自分に都合よく物事を考え、都合の悪い情報を過小評価したり、無視してしまうという「正常性バイアス」の呪縛にとらわれているからです。バイアスとは“偏見”とか“思い込み”という意味。日本が災害多発国だと分かっていても、正常性バイアスによって、正常な状態がずっと続くと思い込み対策がおざなりになっているのが現状です。
 また人間は、普段の生活のローテーションとは違うことを行うのが苦手です。「防災を考え、備える」というのは、普段の生活とは“少し違う”こと。どうしても「面倒くさいからまあ後でいいや」という思いから「自分だけは大丈夫」と根拠なき安全過信に陥ってしまいます。
 大規模災害に備えるには、「明日、震度6強の地震が起こる」と考え、備蓄や家具の固定、家族での防災会議などを行うようにしましょう。そして念のため、感染症×大規模災害=複合災害にも備えた準備や備蓄を今すぐ始めてください。

2018年7月の西日本豪雨では死者237名という甚大な被害が発生しました。3人が犠牲となった広島市安佐北区口田南の土砂災害現場は、土砂災害防止法に基づく「警戒区域」に指定されていた地域でした。
提供: 防災システム研究所 山村武彦

災害列島日本では「知る努力」が大切

 2000年に、「土砂災害防止法」という法律が施行されたのをご存じでしょうか。自治体は土砂災害のおそれのある区域について明らかにし、危険の周知や警戒避難体制の整備などを行わなければならない、というもので、法律が作られたときのキャッチフレーズは「行政の『知らせる努力』と住民の『知る努力』で、土砂災害による人的被害をゼロに」でした。
 行政はその後、ハザードマップの作成などさまざまな形で「知らせる努力」に尽力しています。しかし、私たちの「知る努力」はどうでしょうか? 「今住んでいる場所のハザードマップを確認したことがない」という人は多いことと思います。
 防災やリスクの情報は、待っているだけでは手に入りません。自分で取りに行かないと、本当に必要な情報は手に入らないのです。今はWEBやスマートフォン用のアプリケーションなどで、防災に関するさまざまな情報が公開されており、便利なツールもたくさんできています。自分や家族のために、さまざまな手段を利活用し「知る努力」をすることが災害列島日本に住むうえでの作法だと思うのです。
 気候変動で災害激化が懸念される今、防災に関する環境や対応が大きく変化しています。例えば、市区町村が指定している避難所についても、災害ごとに避難所を定めるようになってきました。地震用避難所と水害用避難所など、避難所の地形や地盤などと施設の強靭性で分けています。ですから、市区町村のホームページで防災マップやハザードマップを確認しておく必要があります。また、避難する場合も安全な親戚・知人宅、状況によっては車中避難、ホテル・旅館などの分散避難や在宅避難を選択することも可能です。このハンドブックを参考に、家族で話し合って我が家の防災対策や非常行動、避難経路の見直しを行いましょう。

防災システム研究所所長。新潟地震(1964年)を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任。著書多数。

※記事内容は、執筆時点2023年8月1日のものです。

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