人生100年時代、
健康はますますプライスレスに

人生100年時代だからこそ、より大切になるのが「健康」です。長生きするのなら、できるだけ健康寿命を長く、病気や介護が必要になる期間は短くしたいものです。健康とお金の関係や、日常で心掛けたいことなどを、八ツ井慶子氏に伺いました。

監修:

八ツ井 慶子

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長く働くためには
より「健康でいる」ことが大切

 人生100年時代になって、「もっと長く働くことになるだろう」ということは、これまでにお話ししてきました。しかし、長く働くには、まず健康でいることが必要です。健康な体と心は、働くための資本となります。健康でいれば、お金を得ることもできるし、医療費や介護費などで出ていくお金も掛からないため、二重にお得です。

 もし、健康を損なって毎月3,000円でも医療費が高くなれば、年間3万6,000円、10年続けば36万円、30年で108万円と、ジワリと家計の負担になります。医療費は“仕方ない”で見直しの対象から外されやすいのですが、あらためて超長寿社会到来前に考えておきたいテーマです。

 金融商品を選ぶ際にも健康状態が影響することがあります。例えば、保険の見直しのときに、健康だと割安な保険料で入れるものがあったり、既往症などがある人の保険料が割高になったりします。健康不安があると、住宅ローンを組むときに、万一、団体信用生命保険に加入できないと、住宅ローンそのものを組めない場合があります。健康はお金で買えるものではありませんが、家計に大きく影響するのですね。

 付け加えると、体と心はつながっています。ですから、体の健康は心の健康にもつながりますし、心が病むと体まで病んでしまいます。現代は、残念ながら精神的な病も増えていることから、体のケアと同時に心のケアも心掛けましょう。関係ないようで、結果的に家計にもプラスに働きます。

国民が健康に掛けるお金は増えている
しかし、お金を掛けたら病気にならないわけではない

 生命保険協会の『2021年版 生命保険の動向』では、個人向け商品のうち、医療保険の保有契約件数は2020年度に 4,180 万件(前年度比 103.3%)となり、継続して増加し続けているし、総務省統計局の『家計簿からみたファミリーライフ』では、「スポーツ施設使用料」は60歳代の世帯で最も多くなり、サプリメントなどの「健康保持用摂取品」は70歳以上の世帯が一番多くなっています。

 このように健康にお金を掛けていても、2021年度の日本の概算医療費は44.2兆円と上がり続けているというのが現状です。お金を掛けて保険に入ったり、サプリメントを飲んだりしているから病気にならないということはないし、本当は不安もなくならないはずなのです。

 私は、家計のコンサルティングをしていて、たまに複数の医療保険に加入している人を見かけます。しかし、「保険をやめましょう」という提案は言いません。まずは冷静に費用(保険料)対効果(保障内容)を確認し、ご本人の満足度が負担感にマッチしているかどうかを丁寧に一緒に検討していきます。保険の効果の1つは『安心感』なので、加入している人がそれで安心できるのなら、その人にとって“見合うコスト”なのだと思います。

 医療保険はこれだけ保険料を払ったら、該当する病気で入院したときなどにいくらもらうかという金融商品です。例えば、「保険料と同じお金を自分で積み立てて、病気になったときの医療費をカバーできれば、積み立てはいわば“マイ保険”です。貯蓄も備えの1つなわけです。

日々のコツコツが大事なのは、
健康も同じ

 老後の医療費や介護費が心配という方は多いのですが、急に老後がくるわけではなく、今と老後はつながっています。健康管理と家計管理はよく似ていて、日々の心掛け次第で少しずつ健康に近づくし、メリハリがあれば、少しずつ貯まっていきます。そして、どちらもある一定程度強靭になれば、ちょっとしたことで崩れることはなくなり、そのことがさらなる安心感につながります。

 老後は人生の総決算。体も家計もそれまでにやってきたことのツケが回ってきます。健康な人が医者いらずのまま過ごせる一方で、日常的に病院通いが必要になる人もいて、差が大きくなります。平均的にこれだけお金が掛かるから老後に備えて医療費・介護費の準備をしなければならない、という発想だけではなく、そうならないように今から心掛けていくことも、長い時間を経て大きな違いとなることでしょう。

 長年生きていれば、体もくたびれていきます。健康においても、食事・運動・睡眠について日々コツコツ取り組み、それを積み重ねることが非常に大事です。運動も意識して行いたいところです。1日10分の体操や、朝起きてからのストレッチなど、将来のために小さなことを積み重ねていきましょう。

 なお、医療費や介護費については、健康保険や介護保険があり、それぞれに高額療養費制度や、高額介護サービス費制度などで一定額以上のお金は掛からないような公的な社会保障制度があります。日々、自分でできる備えは行いつつも、万一のときには、公的保障をしっかり利用することも大事です。このような制度を知っておくだけでも、不安が少し減ると思います。

今回のポイント


・長く働くためには、「健康でいること」が大前提
・お金をかけても病気は防げない
・老後にツケがこないように、健康もお金も「毎日コツコツ」がポイント

※この記事内容は、執筆時点2022年10月26日のものです。

八ツ井 慶子(やつい けいこ)
生活マネー相談室 代表、家計コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、城西大学経済学部非常勤講師。大学卒業後、大手信用金庫に入庫。2001年 家計の見直し相談センターの相談員として、FP活動を始める。2013年 生活マネー相談室を立ち上げ、家計相談、セミナー講師、各種メディアへの出演、執筆などで活躍中。

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