人生100年時代
老後の不安対策は「一生涯費目」の見直しから

人生100年時代を踏まえ、数年前に金融庁が、「老後30年間で2,000万円が不足する」というシミュレーションを記載した報告書を出して物議を醸しました。実際、老後資金をどう考えれば良いのでしょうか。八ツ井慶子氏に伺いました。

監修:

八ツ井 慶子

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資産運用より先にやるべきことは
家計のムダを省くこと

 新聞で、「若い人も老後が不安で積立運用を始めている」という記事を見かけました。老後資金に不安があると、金融機関を中心に資産運用を薦められることが多いのですが、リスクを取った資産運用は、家計の救世主ではないと私は考えています。

 資産運用を否定するわけではありません。大事なのは順番です。資産運用を先に始めるのではなく、まずは家計の見直しをしてムダを省くことが先決。
 例えば、超長寿化で人生が長くなると、一生使い続ける費目の累計額が大きくなります。私はこれを「一生涯費目(いっしょうがいひもく)」と呼んでいて、こうした費目から家計の見直しを行い、生活コスト全体をできるだけ抑えられるようになることの方が有効だと考えています。

人生100年時代は
「一生涯費目」を抑えることが大事

 一生涯費目(図表①)は、生きている限り(あるいは長期的に)ずっと使い続ける費目で、具体的には、住居費、食費、水道・光熱費、通信費、被服費、趣味のお金など。人生100年時代には、日々のちょっとしたコストでも、累計すると大きな金額になるので、あなどれません。ここが多ければ多いほど、老後のみならず、人生の生活費が膨らみます。

 意識を持ってムダを省くことは、長い目で見るととても大きな効果があります。資産運用に匹敵するくらい大きな効果があることは改めて認識してもらいたいところです。人生は長くなっているので、1回見直しをしてもそれで終わりではなく、気になる部分があれば、そう思ったタイミングで見直しを進めていきましょう。

 今は、便利で魅力的な商品が様々あり、しかもすぐに購入できる時代だからこそ、気がつくとついムダなものを買っていることが多いのです。
 いろいろな家計を拝見してきて、収入が増えるほど家計のメリハリが弱くなっている傾向を感じます。日々何となくの買い物を続けていると、本当に欲しいものも見えなくなってしまうのではないでしょうか。

 私の家計相談の経験上、一つの費目でメリハリが出ると、他の費目も影響してメリハリが出てきます。要はムダを省く「考え方」ができるかどうかが大事なわけです。「ここがもったいなかったな」と考えられると、他の費目でのムダにも気付きやすくなります。一つの費目をきっかけに、家計全体のムダの見直しにつながります。ムダを省いて得たお金は、余裕資金として貯めて、本当に好きなものを買う資金に回しましょう。

資産運用では増えにくい時代に
コツコツ貯めていくことが一番の対策

 収入が多い現役時代に貯めておいたまとまった資金を、収入が少なくなる老後に回すようにするのが、老後資金の基本的な考え方です。
 老後に限らず、お金を貯めておかなくてはならないのは、収入と支出の曲線が違うから。収入は給料や年金など基本的には大きく変動しませんが、支出は車を買い替えたり、家をリフォームしたり、家電を買ったりなど、突発的に掛かるものもあり、収入の推移と連動しません。
 そこで、支出をまかなうために、収入の一部を貯めておいて必要な時期に回します。それが家計管理です。別の言い方をすれば、常に収入の範囲で生活できれば、難しい家計管理は必要ないですし、ひいては老後資金を貯めなくてもいいわけです。

 要注意なのが、定年前の収入が高い時期のメタボ家計です。収入が高くてもお金が貯まっていない家計の特徴は、一生涯費目が膨張しているだけに留まらず、他の費目においても使い過ぎている傾向があるということです。車、家、子どもの教育費、等々すべての費目でたくさん使うというように、メリハリのない状態をずっと続けていたら、いくら収入があってもお金は貯まりません。そして、この家計のまま、老後生活に入ってしまうと、あっという間に立ち行かなくなるでしょう。

 また、リスクを取って資産運用をすることもいいのですが、今は増えにくくなっているということを理解した上で行いたいところです。例えば、先進5か国の金利は長期的に下がり続けています(図表②)。金利が低いということは、「経済成長しにくくなっている」ということ。なので、株でも投資信託でもかつてのようには「値上がりにしくくなっている」わけです。

先進5か国新発国債10年物利回り推移(図表②)

出典:investing.com

 老後資金に不安がある人は、まず家計の中の一生涯費目を見直すことをお勧めします。不安だからとリスクを取る資産運用を先に始めるのは順番が違うと思います。資産運用しても必ず儲かるとは限りません。投資をする際には、金利が長期的に、かつ世界的に下がっていて儲けにくくなっているという現状を分かった上で行いましょう。その場合も、まずは家計のムダを省いて余裕資金を見極めた上で、自分のリスク許容度に合ったリスク商品に投資することを心掛けましょう。
 遠回りなようですが、ムダをなくしてコツコツ貯めることが老後対策の近道なのです。

今回のポイント


・資産運用をするのは、まず家計のムダを省いてから
・「一生涯費目」は丁寧に見直しを
・老後に向けて、今あるお金を大事に扱おう

※この記事内容は、執筆時点2022年9月20日のものです。

八ツ井 慶子(やつい けいこ)
生活マネー相談室 代表、家計コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、城西大学経済学部非常勤講師。大学卒業後、大手信用金庫に入庫。2001年 家計の見直し相談センターの相談員として、FP活動を始める。2013年 生活マネー相談室を立ち上げ、家計相談、セミナー講師、各種メディアへの出演、執筆などで活躍中。

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