今から始められる
年代別 老後の備え

私たちの老後は長くなる一方で、年代に関係なく、老後のお金の心配をされている方も多いかもしれません。大切なことは、若い頃からお金を貯める習慣を身に付けておくこと。具体的に何をすれば良いのか、専門家に解説してもらいます。

監修:

深田 晶恵

〉〉〉プロフィール

老後不安は「おばけ屋敷」
分かっていれば怖くない

 都道府県民共済グループが生活者を対象に行ったアンケート※によると、20〜30代を含むすべての年代で老後のお金への不安が高まっているのだそうです。
 私はよく、老後不安を「おばけ屋敷」に例えます。おばけ屋敷は、いつ、どこで、どんなおばけが出てくるか分からないから怖いのであって、もし知っている人がおばけ役で、何番目の角を曲がったところで出てくるかが分かっていたとしたら、ちっとも怖くありませんよね。
 お金のことも同じです。いつ、どんな支出があり、どうやって備えればいいかを知ってさえいれば、漠然とした不安はなくなります。老後は明日やってくるわけではないのですから、むやみに恐れる必要などありません。
 とはいえ、老後まで40年以上もある若い世代と、もうすぐ老後を迎える世代とでは備え方も違ってきます。そこで、年代別に心がけたいポイントを具体的に見ていきましょう。将来が不安にならずに済むようなお金の習慣を身に付けてください。

※「暮らしの中で気になることや知りたいことは?」(2020年 回答数3,449)

20~30代

「先取り貯蓄」は基本の“き”
目的ごとに分けずに貯める

 20〜30代の人たちには、これから多くのライフイベントがあるはずです。結婚、住宅の購入、子どもができたら教育費も貯め始めなければなりません。誰もがすべて経験するわけではありませんが、老後の準備以前に、お金のかかる場面がたくさんあるということは間違いないでしょう。
 この年代が取り組むべきは、一にも二にも貯蓄です。結婚費用、住宅購入費用というように目的別に分けて貯蓄をする方法もありますが、それはよほど潤沢な収入がないと難しいものです。
 大切なのは、目的にかかわらず収入の中から「先取り貯蓄」をして、残ったお金で暮らす習慣を身に付けることです。まずは毎月決まった金額を積み立てていきましょう。そして、貯蓄をして残ったお金で赤字を出さずに生活します。これができれば一生お金に困ることはありません。たとえ収入が減っても、この時期に貯蓄と生活費のバランスを見直しつつ支出をコントロールできる力を身に付けておけば安心です。
 結婚するならば、これからの時代は共働きが必須です。女性でもいったん仕事を辞めようと思わずに、できるだけ仕事を続けてください。

老後のお金を貯めるためにやるべきこと
<20~30代>

  • 結婚、住宅購入などお金のかかるイベントが目白押しと心得る。
  • 「先取り貯蓄」をして、残ったお金で暮らす習慣を身に付ける。
  • 結婚するなら、夫婦共働きは必須。
40~50代

奨学金の借りすぎに注意!
親子でじっくり話し合う

 40〜50代にとってもっとも大きな支出は、子どもの進学にかかる費用でしょう。大学4年間の学費は、私立大学の文系学部で400万〜500万円ほど。地方から大都市圏の大学に進学することになれば、これ以外に仕送りの出費もかさみます。
 気を付けたいのは、安易に多額の奨学金を借りること。子どもから「友達の兄弟も奨学金を利用しているよ。そうすればお金のことも大丈夫でしょう?」などと言われるかもしれませんが、子どもは奨学金が自分で背負うことになる借金だと理解していない可能性も。教育ローンは親の借金ですが、日本学生支援機構の貸与型奨学金は、子どもが返済する借金です。40代以上の人が学生だった頃よりも、今は一人あたりの貸与額が増えているので、最近の大学生の中には卒業時点での借入額が600万〜700万円にのぼる人もいます。将来、結婚して家を買おうというときになっても、まだ奨学金の返済が終わっていないということが起きてしまいます。
 子どもの希望を叶えてあげたいですが、奨学金でお金の問題がすべてクリアできるとは考えないでください。仕送りも含めた費用はいくらかかるのか、親がどこまでサポートできるのか、子どもが2人以上いる場合は同じようにしてあげられるのか。こうしたことを家族でよく話し合う必要があります。
 もし親が無理をすれば老後資金が苦しくなり、子ども自身に無理をさせれば社会人になってから借金を背負わせ続けることになります。親子ともに将来の生活に影響してくるので、お金の話をタブーにしないことが大切です。

国民年金は未加入にしない
免除・納付猶予の選択肢も

 大学生の親御さんに気を付けてほしいことがもう一つ。子どもが20歳になったら、忘れずに国民年金に加入させましょう。気づかないまま放置すると未加入になり、将来もらえる年金が少なくなってしまいます。もし親に余裕があれば、学生の間は保険料を払ってあげてもいいですし、支払いが難しい場合は、納付猶予を申請できますので、必ず加入手続きをしましょう。
 また、この年代は妻がパートで働いている家庭も多いかと思います。老後資金を作るためには共働きを続け、世帯収入を増やす努力も大切です。
 子どもが社会に出たら、ラストスパートをかけて自分たちの老後資金の準備をしたいところですが、今は晩婚・晩産の時代。60代になってもまだ子どもの教育費がかかる家庭も少なくありません。60歳がゴールではなく、その先も働き続けるイメージを現役の頃から持っておきましょう。

老後のお金を貯めるためにやるべきこと
<40~50代>

  • 子どもの進学にあたって、資金面についても子どもと話し合う。
  • 子どもが20歳になったら国民年金への加入手続きをする。
  • 老後資金作りに向けて、妻も働き世帯収入を増やす。
60歳~

65歳以降は、年金で
足りない分だけ働けばいい

 60歳以降に再雇用などで働き続けても、3割〜5割程度まで収入減になってしまう人が大半で、私はこれを「収入ダウンの崖」と呼んでいます。徐々に減っていくのではなく、ある時を境にガクンと下がるイメージです。このときに生活をダウンサイジングできるように、支出を見直すことが欠かせません。
 さらに、65歳になって年金だけで生活しようとすると、もう一段階の「収入ダウンの崖」に直面します。大ピンチだと思われるかもしれませんが、生活のサイズを小さくし、長く働き続けられれば十分にカバーできます。
 働くといっても、現役時代と同じくらい稼ぐ必要はありません。年金で足りない分、もし月に5万円足りないとしたら、5万円分の収入を働いて得られればいいわけです。
 そう考えると、実は60〜64歳よりも、年金を受給できる65歳以降のほうが家計は楽になります。90代まで長生きするとしたら「どれだけ貯金があればいいの?」と途方に暮れてしまいますが、年金で足りない分だけを仕事の収入や貯蓄で補うものと考えてみてください。老後は決して、おばけのように得体の知れないものではないのです。

老後のお金を貯めるためにやるべきこと
<60歳~>

  • 子どもの進学にあたって、資金面についても子どもと話し合う。
  • 子どもが20歳になったら国民年金への加入手続きをする。
  • 老後資金作りに向けて、妻も働き世帯収入を増やす。

※この記事内容は、執筆時点2021年8月2日のものです。

深田 晶恵(ふかた あきえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP®)。会社員を経て、1996年にFPに転身。すぐに実行できるアドバイスをするのがモットー。近著に「まだ間に合う! 50代からの老後のお金のつくり方」(日経BP)などがある。

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