がん予防は「食事」と「筋トレ」から始めよう!
第2回 がんを防ぐカギは「筋肉」にあった

がんは、遺伝よりも生活習慣の影響が大きいといわれています。特に「腸内環境」と「筋肉」は、炎症や免疫の働きに直結する重要な要素です。このシリーズでは、がん予防につながる生活習慣を2回に分けて紹介。前回は“腸内環境”をテーマにお届けしました。第2回となる今回は「筋肉」です。筋肉量が多いほど慢性的な炎症が起こりにくく、がんの発症や再発のリスクが下がる可能性が指摘されています。なぜ筋肉ががん予防のカギになるのか、そして今日から取り入れられる筋トレの方法まで、分かりやすく解説します。

監修:

石黒 成治

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なぜ筋肉が「がん予防」のカギになるのか?

筋肉は体を動かす役割以外に、体内の炎症を抑え、免疫の働きを整える役割を持っています。がんは、体の中に慢性炎症が持続することによって発生しますので、炎症を抑えられる筋肉がしっかり機能しているほど、がんを遠ざけることにつながります。近年では、「筋肉量が多い人ほど、がんの再発率が低い」という研究データ(※)も注目されています。単に体を動かすためだけでなく、筋肉そのものが、がん予防のカギになることが分かってきました。

■筋肉量とがん発症リスクの関係

筋肉には、体内の炎症を抑える働きがあります。しかし、運動不足や加齢によって筋肉量が減り、筋肉の隙間に脂肪が増えると、炎症が慢性化しやすくなります。慢性炎症は細胞に悪影響を与え、がんの発症や再発のリスクを高める要因と考えられています。実際に乳がん患者の研究では、筋肉内の脂肪が多い人ほど再発・転移のリスクが高い傾向が報告されています。

■筋肉が分泌する「ミオカイン」が炎症を抑える

筋肉を動かすと「ミオカイン」と呼ばれる成分が分泌されます。ミオカインは、免疫機能の活性化や体内の炎症を抑える働きがあると注目されています。日々の軽い筋トレでもミオカインの分泌は促され、炎症を鎮め、がんを遠ざける体づくりのカギとなります。

がん予防には「筋トレ」が効果的

筋トレは筋肉量を増やし、炎症を抑える体づくりに最も直接的に作用する運動です。
筋肉は年齢とともに減少し、特に50代以降はそのスピードが加速します。しかし、筋肉は何歳からでも鍛えることが可能で、90代でも筋トレの効果は実証されています。

ウォーキングなどの有酸素運動は心肺機能を高め、気分のリフレッシュに有効ですが、筋肉量を増やす効果はそれほど高くありません。対して、筋トレは筋肉そのものにアプローチできるため、短時間でも効率よく筋力アップを狙えるのです。スクワットや腕立て伏せなど、自分の体重を使う「自重トレーニング」でも、十分な効果が期待できます。

■優先して鍛えたい3つの部位

全身をまんべんなく鍛えるのが理想ですが、次の3つを意識すると、がん予防の観点でも効率が高まります。
・下半身:大きな筋肉が集まる場所。ここを鍛えることで効率よく筋肉量が増え、代謝や免疫力が底上げされます。
・体幹・腹筋:お腹まわりの筋肉は腸の動きを助けます。便秘を解消して腸内環境を整えることで、免疫機能の正常化に直結します。
・胸・背中まわり:リンパの流れに関わる重要な部位で、乳がん予防にもつながるといわれています。

1日3分から続けられる筋トレ

短時間でも毎日続けることで筋肉は確実に変わり、がんを遠ざける体づくりの土台になります。
大事なのは負荷の強さではなく、続けること。ちょっとした運動で良いので、毎日できる範囲で始めてみましょう。
参考に、1日のすき間時間に行える簡単な筋トレをご紹介します。これらを行うことで、下半身、体幹・腹筋、胸・背中まわりを効率的に鍛えられます。

■カーフレイズ(かかと上げ下げ) 20〜30回 × 3セット

①壁や椅子の背もたれなどに手を置き、真っ直ぐ立つ。

②かかとをゆっくり持ち上げ、ゆっくり下ろす。

■レッグレイズ(脚上げ腹筋) 10回 × 3セット

①仰向けに寝て、軽く膝を曲げる。

②息を吐きながら、両脚をそろえてゆっくり上げる。

③息を吸いながら、ゆっくり脚を下ろす。

■プランク 20〜30秒キープ × 3セット

①うつ伏せになり、前腕(肘から手首)を床につけて体を支える。

②お腹に力を入れ、頭からかかとまでが一直線になる姿勢を保つ。

食事前後の軽い運動が効果的

運動は行うタイミングによって得られるメリットが変わります。「食事前(空腹時)」は筋肉の発達を促す成長ホルモンの分泌を刺激しやすいため、筋肉をつけたり、脂肪の燃焼を促進したりするのには効果的。また、「食後30分~1.5時間」は血糖値の乱高下を防ぎ、睡眠の質も向上します。目的に合わせて取り入れるのがおすすめです。

食べてすぐ寝るのはNG

食後すぐ横になると血糖値が不安定になり、夜間の低血糖や覚醒につながりやすくなります。「食事は就寝の2〜3時間前まで」を目安に、軽く体を動かしてから休む習慣をつくりましょう。

腸と筋肉の関係

腸の働きには筋肉のサポートが欠かせず、腸内環境と筋力の維持はがん予防の両輪になります。
第1回では「腸内環境を整える食事」についてご紹介しましたが、腸が正常に働くためには、食事だけでなく筋肉の働きも欠かせません。腸と筋肉の両方からアプローチしていきましょう。

■筋肉が腸の動きを助ける理由

お腹まわりの筋肉(腹筋や体幹の筋肉)は、腸を外側から支え、便を押し出す動きなどを助ける働きをしています。軽い体幹トレーニングでも、腸への刺激となり、毎日の排便リズムを整えてくれます。

■腸内環境の炎症とがんリスク

排便が滞ると、腸内環境が乱れ、炎症が生じやすくなります。腸は免疫細胞の約70%が集まる重要な場所でもあり、腸内の炎症はがんの発症リスクに直結します。腸を動かすための筋肉をしっかり保つことは、がん予防にとっても大切です。

まとめ


がんを遠ざけるためには、「腸を整える食事」と「筋肉を動かし続けること」が欠かせません。特に筋肉は年齢に関係なく成長させることができ、腸・免疫・代謝が同時に整い、体を内側から守る力を高めます。運動が苦手でも、1日数分の「筋トレ」を続ければ体は確実に変化していきます。第1回で紹介した“腸内環境”と今回の“筋肉”。この2つが揃うことで、がんを遠ざける生活習慣をつくります。日々の積み重ねこそが、健康寿命を延ばす近道なのです。

※出典:大腸がん患者の筋肉量と全生存率の関連性(Association between muscle mass and overall survival among colorectal cancer patients at tertiary cancer center in the Middle East, 2024年, PubMed ID:39242580)、および、乳がん患者におけるサルコペニア:系統的レビューとメタ分析(Sarcopenia in Breast Cancer Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis, 2024年, PubMed ID:38339347)

※この記事内容は、執筆時点2025年12月17日のものです。

石黒 成治(いしぐろ せいじ)
消化器外科医、ヘルスコーチ。国立がんセンター中央病院で大腸癌外科治療のトレーニングを受け、名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務。
2018年から予防医療を行うヘルスコーチとして活動。著書に『専門医が教える がんにならない食事法』『筋肉が がんを防ぐ。 専門医式 1日2分の「貯筋習慣」』(KADOKAWA)などがある。

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