契約は慎重に!
低金利で再注目の
「外貨建て生命保険」

日本の低金利を背景に、契約者が支払った保険料を外貨で運用する「外貨建て生命保険」を勧められる人が多いようです。一方で苦情が多く寄せられる現状もあり、商品の内容をよく理解して、慎重に検討することが欠かせません。

監修:

清水 香

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外貨建て生命保険は「運用型商品」

 外貨建て生命保険は、円を外貨に換えて保険料を支払い、保険金も外貨で受け取る保険で、日本よりも金利の高い国の通貨で運用できることが魅力とされます。円建ての保険と同様、終身保険や養老保険、個人年金などが提供されています。
 ある商品の米ドルでの積立利率は4%程度、豪ドルで3%程度ですから、日本の市場金利と比べると、はるかに高い水準です。
 日本では超低金利が続き、かつ円建ての貯蓄型保険の予定利率も最低水準だった背景から、主に銀行窓販で多くの外貨建て保険が販売されてきました。
2024年4月25日現在

 仕組みは円建ての保険と変わりません。保険料を払い込むと死亡時などに約束された保険金等を受け取れます。ただし保険料の払い込みや保険金等の受け取りは原則外貨です。よって通貨を両替する都度、為替手数料の負担が発生することになります。
 さらに、契約期間を通じて為替相場の影響を受けます。外貨建てでの保険金は保証されてはいるものの、円建てでの受取額は為替相場次第。契約時よりも円高が進めば、円建ての保険金が元本割れする恐れがあります。逆に契約時よりも円安が進めば、円建ての保険金は増えます。
 ただしその場合でも、為替差益の果実を丸ごと享受することはできません。外貨建て保険には種々のコストがかかるため、その分収益が押し下げられてしまうからです。

積立利率が有利にみえても
種々のコストが収益を押し下げる

 外貨建て保険で一般にかかるコストを概観してみましょう。

❶契約時

 保険料を支払うとき、円を外貨に換えて保険料を払い込むため為替手数料がかかります。
 また、外貨建てで払い込む保険料は、契約時点の為替レートで変わります。円で100万円を払い込む場合でも、円高だとより多くの外貨を換えられるため保険金額が高くなり、円安だとより少ない外貨にしか換えられずに保険金額が低くなります。外貨で払い込まれた保険料が運用に回る「積立金」になります。

❷契約期間中

 積立金からは、死亡保険金に充てられる保険料のほか、契約締結・維持にかかる保険料などの「保険関係費用」が継続して差し引かれます。「運用関係費用」が差し引かれる場合もあります。

❸解約時

 契約日から一定期間内に解約すると「解約控除」が差し引かれます。年数が浅いほど、控除率は高くなります。
 また、債券で運用する保険には「市場価格調整(MVA)」が行われる場合があります。市場金利が変動すると、債券価格は変動します。この価格変動を解約返戻金に反映させるしくみで、解約時の市場金利が契約時より上昇していると解約返戻金が減り、下落していると増えます。
 加えて、外貨で受け取った解約金を円に換えるときは為替手数料がかかります。

❹保険金受取時

 外貨で受け取った保険金を円に換えるとき、為替手数料がかかります。

 積立金に適用される積立利率が比較的有利に見えても、このように契約時・契約期間中および解約返戻金等の受取時のいずれの時点でも種々の手数料が差し引かれるため、実質利回りは積立利率よりも低くなります。もともと大きな収益を得にくい構造があるのです。

 仕組みがとても複雑なので、商品の理解にはそれなりの知識が必要です。しかし、商品を理解できる人なら、まず選ばない商品ともいえます。
 外貨運用をしたいのであれば、外貨建てMMFや外国債券に直接投資すればコストが抑えられ、より効率的に収益を得られるはずです。死亡保障が必要なら円建ての定期保険に加入するほうが合理的でしょう。
 問題は、知識が十分でない人に外貨建て保険が勧められ、かつそうした人の加入がトラブルを招いていることです。

相次ぐトラブル

 近年、全国の消費生活センター等には外貨建て生命保険について以下のような相談が多く寄せられています。

・「元本保証を約束され豪ドル建ての保険を契約したが、元本保証ではなかった」
・「定期預金をしたつもりが、外貨建て変額個人年金に加入していた」
・「両親が外貨建て生命保険を勧誘されクーリング・オフしたが円高で損が出た」

出典:国民生活センター「外貨建て生命保険の相談が増加しています!」
2020年2月20日公表

 上記の相談内容からは、契約者が外貨建て生命保険を十分理解して加入しているとはとても言えない現状が見えてきます。
 こうした事例について、国民生活センターは以下のような特徴と問題点を挙げています。

・外貨建て生命保険の契約であることやリスクについて消費者の理解が得られていない
・消費者の意向と異なる勧誘や契約が行われている
・認知能力の低下した高齢者への勧誘がみられる
・多数契約や高額契約に関する相談がみられる
・クーリング・オフをしても損失が発生する場合がある

 日本は現在、歴史的な円安状況にありますが、このような中で、外貨建て生命保険を銀行から勧められた知人が多額の契約を締結したと耳にしました。銀行で適切な説明を受けたうえで、納得して契約締結を判断したのか、とても心配です。

 外貨建て生命保険に関するトラブルは今に始まったことではなく10年以上前から何度も繰り返してきました。業界の顧客に寄り添う対応や監督省庁の適切な指導監督が求められるのはもちろんですが、自分に適切な金融商品を選択できるよう、私たち生活者の金融リテラシーをより向上させることも、喫緊の課題ではと思います。

※この記事内容は、執筆時点2024年6月19日のものです。

清水 香(しみず かおり)
1968年生まれ。FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表、株式会社生活設計塾クルー取締役。生活者向け相談業務のほか、執筆、講演など幅広く展開、TV出演も多数。財務省の地震保険関連の政府委員を歴任、自由が丘産能短期大学講師、日本災害復興学会会員。

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