人生100年時代の乗り切り方
今ある不安と向き合う方法

これまでよりも平均寿命が延びる「人生100年時代」には、働き方や生き方に加えて、家計の考え方も時代の変化に合わせて変わっていくと考えられます。これまでの5回の連載で考えてきたことを振り返り、これからの人生にどう向き合えばよいのかを察してみましょう。

監修:

八ツ井 慶子

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超長寿化、人口減少、少子高齢化、低経済成長、デジタル革新……
これらが同時進行する未経験の時代へ

 この連載では、これからの「人生100年時代」にどんな変化が起こるのか、私たちはどう備えればよいのかを考えてきました。まず、定年年齢の伸びが寿命の延びに追いつかないために老後期間がますます長期化するため、今のままでは多くの方にとってリタイアまでに十分な老後資金を準備するのは難しくなることを指摘しました。

 また、現在のような働き方で長く働くことの難しさも指摘しました。超長寿化に加えて、人口減少、少子高齢化、低経済成長、さらにデジタル革新が同時進行する未経験の時代に突入したのです。
 従来の若いころに学校で学んで長く働く「教育→仕事→引退」という3ステージ型のライフサイクルではなく、人生100年時代には「学び直し」や、働くことを「休む」期間が入ってくるマルチステージ型の人生に移行していくものと考えられます。まずは、現在が時代の大きな変化の過渡期であり、今後ますます社会の大きな変化が起こることへの心の準備をしておきましょう。

 人生100年時代には、以前より働く期間が長くなると予想されるため、その時代に合わせて働くには学び直しの必要性が高まります。学びを繰り返していかないと、自分のスキルが陳腐化していく恐れがあります。また、副業OKの会社も増えてきて、将来的には多くの人が同時に複数の仕事を持ちつつ、長く働くのが当たり前になってくるかもしれません。

 今は、制度的に働きながら学び直すことが難しい状況ですが、時代の変化に合わせてキャリアプランを構築できるように様々な制度の情報にアンテナを張っておきましょう。例えば、会社の福利厚生制度や雇用保険の教育訓練給付金など、すでにある制度を活用して、今から何ができるか考えておいてもいいでしょう。

「一生涯費目」のムダを省くことは、
資産運用に匹敵するくらいの効果アリ

 人生100年時代においても、家計を見直してムダを省くことが大事。特に生きている限り掛かり続ける「一生涯費目」である住居費、食費、水道・光熱費、通信費などにムダがないかをチェックしてみましょう。
 超長寿化ともなれば、月々は少額であっても、その累計額はあなどれません。意識してムダを省くことは、資産運用に負けないくらいの大きな効果があります。金利が低く、経済成長率も低いということは、資産運用しても増えにくい時代だということです。こんなときは、より日々の小さな積み重ねが大きな効果につながります。

 さらに、人生100年時代に長く働くための前提条件は、心身共に健康であることです。体と心はつながっているため、体のケアと同時に心のケアも非常に大事です。ストレスが原因で体調を崩す、なんてことはよくあることです。仮に健康を損なって医療費が掛かれば、家計の負担になります。健康管理と家計管理はよく似ていて、日々の心掛け次第で良くも悪くもなるものです。食事のバランス・適度な運動・十分な睡眠を意識し、日々の健康習慣を積み重ねていきましょう。

自分の不安と向き合って
不安の輪郭や大きさを知ること

 すでに日本の社会も経済も大きく変化してきて、その「過渡期」にあることは、各種のデータが示しています。連載の第5回では、①人口減少、②家計の二極化(貯蓄を保有している世帯と保有していない世帯の変化)、③生活意識調査、④年金財政を取り上げました。

 自分たちの将来や家計に対する不安はありますか?このまま住宅ローンを払い続けられるのか、子どもの教育費は大丈夫か?老後資金は十分に貯められるのか?老後は年金で暮らせるのか?などといったさまざまな不安があると思います。

 家計のコンサルティングをしていると、さまざまな不安を抱えるご家庭から相談を受けます。しかし、その不安は漠然としたものであるケースが意外と多いのです。例えば、「年金が不安」と言っても、年金についてよく知らないままで、漠然と不安だと感じている。年金の制度について理解を深め、自分が将来何歳からいくらくらい受け取れるのかが試算をして見通せると、不安が減るケースが多くあります。自分は何に対する不安があって、どういった情報を必要としているのか、そのためにはどういったことを調べればいいのか、一旦落ち着いて考えてみるだけでも心持ちは変わってくると思います。

 コンサルティングに来ていただいたお客さまにキャッシュフロー表(将来の収入と支出を長期的に予測し、貯蓄残高の推移を分析する表)をつくって、「このままでは破綻の恐れがありますよ」という結果をお伝えすると、思いの外安心されるお客さまが多いのです。
 なぜ、「破綻する」という結果で安心されるのかというと、あいまいだった不安の輪郭が具体的な数値ではっきりイメージできたからでした。「破綻する」という結果だったとしても、不安の輪郭が見えてくると、破綻を回避するために今からどうしたらいいのか、具体的な対策が立てられるようになったと気付いてホッとするのだそうです。

 キャッシュフロー表を見ながら、「こう支出を抑えることができれば、こう変わります」「このくらい長く働くことができればこう変わります」というようなことは、エクセルで計算しながら、その場で提示できます。そうすると、「こんなに変わるんだ、破綻は避けられそうだ」という前向きな気持ちになります。
 この時点で家計の状況は何も変わっていません。ご相談に来られて、私と数時間話しただけです。お客さまは、ただ意識が変わっただけなのですが、とても晴れやかなお顔になります。これは、自分の不安ときちんと向き合ったから得られた感覚だと思うのです。

 皆さんも、自分が不安に感じていることは何なのかをぜひ、具体的に書き出して考えてみましょう。何が不安なのか、どうなったら不安なのか、できればリアルな数字も含めて考えるといいですね。一度全身どっぷり不安に浸かるくらいの感覚です。不安を不安のままにしていたら、いつまでたっても不安はなくなりません。

 しっかり不安と向き合ったら、「一番避けたいことは何かな?」と考えてみてください。そのときに、自分でできることとできないことがあります。自分でできることはどんな小さなことでもいいので、まずはやってみてください。そして、できないことは良い意味で諦めましょう。

 例えば、年金制度を個人で変えることはできませんが、支出を整えて老後資金を貯め始めることはできます。年金改革に精力的な政治家に一票投じることはできます。皆さんが漠然とした不安と向き合わないのは、それが急に明日にはやってこないからではないでしょうか。
 でも、人生の1日1日は積み重ねで、昨日と今日は変わらないようでいて確実に違っています。今日より早い日はありませんから、早めに不安と向き合い、どうすれば最悪の事態が避けられるのかを考えて、今自分でできることを積み重ねていきましょう。人生100年時代になっても、日々の積み重ねが大事なことに変わりありません。

まとめ
社会や経済が大きく変わるなかで、家計の管理方法もこれまでとは違ってきています。
この6回のシリーズでお伝えしたいのは、
・未経験の新しい時代に、私たちの社会はすでに突入している状態であること
・「大変化」が起こることに、十分な心の準備をしておくこと
・「現代に生きる私たちが、新しい社会を構築していく」という当事者意識を持つこと 
の3点です。
この記事を通して、皆さんが人生100年時代の新しい家計管理に向き合ってくださると嬉しいです。

今回のポイント


・キャリアプラン構築のための情報にアンテナを張っておく
・一生涯費目のムダを省けば資産運用に負けない効果あり
・体と心のケアをして、健康習慣を積み重ねる
・不安を不安のままにせず、具体的に書き出してみる
・不安に向き合ったら「一番避けたいことは何か」を考えてみる
・小さなことでも、自分にできることを日々積み重ねていく

※この記事内容は、執筆時点2023年10月11日のものです。

八ツ井 慶子(やつい けいこ)
生活マネー相談室 代表、家計コンサルタント、ファイナンシャルプランナー、城西大学経済学部非常勤講師。大学卒業後、大手信用金庫に入庫。2001年 家計の見直し相談センターの相談員として、FP活動を始める。2013年 生活マネー相談室を立ち上げ、家計相談、セミナー講師、各種メディアへの出演、執筆などで活躍中。

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