新型コロナで
奨学金の返還が厳しいときは

大学に通うために学費や生活費の補填として奨学金を利用している方も多いと思いますが、新型コロナウイルスの影響によって、その奨学金の返還が厳しいという事態が起きているようです。延滞をしてしまう前に、まず検討したい制度についてご紹介します。

監修:

清水 香

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 日本学生支援機構(JASSO)で奨学金の貸与を受けた学生等は、2.7人に1人(2018年)。多くの学生が利用する貸与型奨学金には返還義務があり、卒業7か月目に返還(=返済)が始まります。
 返還が長期になると、その間に経済困難や失業、病気や災害など、時に思わぬ事態も起き得ます。そしてまさに現在、新型コロナウイルスの影響による雇い止めや休業、さらには内定取り消しにより、奨学金の返還が困難になる事態が生じています。

 しかし、どのような場合でも、延滞は回避しなくてはなりません。ひとたび延滞すれば、延滞金が付加され、個人信用情報機関(いわゆるブラックリスト)の登録対象になるなど将来にわたりデメリットを受けることになってしまうからです。返還が難しくなりそうなら、早め早めにまずは以下2つの制度を検討しましょう。

月々の返還金額を減らす
「減額返還制度」

 この制度は、最長15年間にわたり、月々の返還金額を2分の1あるいは3分の1に減らせるもの。その分、返還期間は長くなり、16年目以降の返還額は、もとの額に戻ります。返還総額そのものが減額されるわけではありませんが、利息を含む返還予定総額は、制度利用前後で変わることはありません。
 たとえば、20年間にわたり月15,000円、総額360万円を返還する予定だった奨学金について、2分の1の減額返還を行うと、返還額は月7,500円となります。これを15年間にわたり返還すると返済額は135万円(残額は225万円)となります。16年目以降は、もとの金額の月15,000円で返還、残り12年6か月で返還完了となります。返済期間は7年半延びましたが、返還総額は減額返還前の360万円のまま変わりません。
 減額返還を続けていくには毎年手続きが必要です。また、利用にあたって審査がありますが、延滞をしてしまうと審査が受けられません。困った時こそ必要な救済策の対象外となってしまうので、延滞にはやはり要注意です。

月々の返済を先に延ばせる
「返還期限猶予制度」

 この制度は、最長10年にわたり、返還を待ってもらえる(=猶予)もの。猶予を受けている間、返還の必要はありませんが、返還総額や利子が免除されるのではありません。返還を先延ばしするので返還完了も予定よりも後になりますが、利息を含む返還予定総額は制度を利用する前と変わりません。
 突発的な事情によって返還が難しくなった時のほか、すでに減額返還制度を利用している場合でも利用できます。こちらも毎年の手続きが必要です。
 なお、災害や傷病、生活保護受給中のほか、産前産後の休業や育休中などの場合は、年限なく猶予を受けられます。また、今回の新型コロナウイルス感染症の影響で猶予を受けたい場合、既に10年間にわたる猶予を受けている場合でも、12か月間は緊急的に猶予を受けられます。臨時対応も行われており、通常必要となる「減収等に関する証明書類」が準備できなければ、今回は「猶予届」の提出のみで振替がストップされます(書類は後日提出が必要)。

どちらの制度についても
収入基準を満たす必要がある

 窓口は日本学生支援機構です。必要書類はHPにアップロードされていますので、指定書類を揃えて願い出ます。なお、いずれの制度についても、利用にあたり下記にある収入等の基準を満たす必要があります。

 制度を利用した後、家計の事情が好転したときは、申し出によりいつでも元に戻すことができます。
 なお、本人が死亡または精神や身体の障害で就労不能になったときは、返還は免除されます(保証人や相続人の申請が必要)。
 日本学生支援機構「返還が難しいとき」にも記載があるので参考になさってください。

※この記事内容は、執筆時点2021年4月30日のものです。

清水 香(しみず かおり)
1968年生まれ。FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表、株式会社生活設計塾クルー取締役。生活者向け相談業務のほか、執筆、講演など幅広く展開、TV出演も多数。財務省の地震保険関連の政府委員を歴任、自由が丘産能短期大学講師、日本災害復興学会会員。

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