お金を渡しても贈与税がかからないケースとは?
個人の間でお金を渡したときや財産を無償で譲ると、「贈与税」という税金がかかる場合があることをご存知でしょうか? とはいえ、お金などを渡しても贈与税がかからないケースもあります。贈与税の基本とともに見ていきましょう。
そもそも“贈与”とは何?
贈与とは、「金銭や物品などを無償で人に贈り与える」ことです。子どもにお小遣いを渡すこと、親しい友人へのプレゼントなどは日常的に行われるものですが、これらは身近な贈与の例と言ってもよいでしょう。
このように、贈与が行われた場合には、贈与税という税金がかかる場合があります。なぜ贈与税がかかるのかというと、金品を渡すことで、受け取る側に経済的な利益が発生するという考えに基づいているからです。
また、贈与税を課すことで、相続時の相続税対策として生前に多くの財産を移すことを防ぎ、適正な税負担を確保する目的もあります。さらに、富(財産)が一部の人に偏らないように、資産の格差を縮小して社会全体の公平性を保つという面もあります。
贈与税についての基本
贈与税というのは、簡単に言えば「個人間での財産の贈与時にかかる税金」です。この場合の個人間とは、友人・知人との間はもちろんですが、親から子、祖父母から孫、夫から妻といった親族間での贈与でも、贈与税の課税対象になります。
ただし、贈与税には110万円の非課税枠(基礎控除)が設けられています。この金額は、贈与額から差し引くことができるため、この額を超える贈与でなければ原則として贈与税の支払い義務は生じません。
その上で、贈与税の課税方法には、「暦年課税」「相続時精算課税制度」という2つの課税方法がありますので、それぞれの内容を簡単にご紹介します。
【暦年課税】
1年毎に贈与税を計算する方法です。具体的には、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額から、基礎控除(110万円)を引いた額に、金額に応じた税率をかけたものが税額になります。
【相続時精算課税】
子や孫が、2,500万円までは贈与税を納めずに贈与を受けることができる制度です。将来、贈与者が亡くなり財産を相続したときに「贈与された財産と相続した財産を合算」し、相続税を計算する方法です。
具体的には、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額から、基礎控除(110万円)を引いた額(贈与が数年間あった場合はその累計額)から、特別控除(2,500万円)を引いた額に、一律20%の税率をかけて贈与税を計算し、贈与税の申告をします。
相続時には、上記の3,000万円から基礎控除110万円を引いた2,890万円が相続財産に加算され相続税が決まります。贈与税として納めた上記の78万円はこの相続税から差し引かれます。
ただし、相続時精算課税については、贈与者(財産を渡す人)と受贈者(財産を受ける人)についての決まりがあります。贈与者は60歳以上(※)の父母や祖父母など、受贈者は18歳以上(※)で贈与者の子や孫などです。また、一度「相続時精算課税制度」を選択すると暦年課税は選択できません。
※贈与者・受贈者ともに1月1日時点での年齢
贈与税がかからない“贈与”とは?
お金などを渡すと必ず贈与税が発生するのかというと、必ずしもそうではありません。そもそも、贈与されても贈与税がかからないものがあります。
例えば、父母や祖父母などの扶養義務者から、その都度もらった(贈与された)生活費や教育費については、基本的に贈与税はかかりません。生活費とは、日常生活に欠かせない費用のことで、食費や水道光熱費、子育て費、治療費、養育費などです。また、教育費は通常必要となる授業料などの学費、教科書代、文具代などの費用を言います。
特に、教育費に関しては、進学コースによっては年間で100万円以上かかることも珍しくありませんが、こういった費用を父母や祖父母が負担しても、必要な都度もらったものであれば、贈与税の心配はありません。
国が設けた贈与税がかからない制度も
国の制度として「この金額までは贈与税はかかりません」という、贈与の仕方もあります。ここでは、人生の中で多額の費用がかかる、子育て費、教育費、住宅購入費の資金贈与で利用できるものをご紹介します。
【結婚資金や子育て資金を一括でもらった】
結婚のお祝いや挙式費用、子育てのための資金を援助してもらえれば、さまざまなモノやサービス価格が上がる物価高の中でも、家計にとっては大きな恩恵になります。
こうしたときに活用できるのは、「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置※1」です。この制度では、18歳以上50歳未満の人が、父母や祖父母から結婚資金や子育て資金として一括でもらった場合、1,000万円(結婚資金は300万円)まで贈与税がかかりません(※1 2025年3月31日まで。ただし、2025年度税制改正で延長される可能性があります)。
この際、非課税になるのは贈与を受けた人が50歳になるまでに支払った費用です。50歳になったときに、もらった資金が残っている場合は、その額に贈与税がかかります。また、前年の合計所得が1,000万円を超える人はこの制度は利用できません。
【子どもの教育資金をもらった】
子育てに関する費用で最もお金のかかるものが教育費です。先述の通り、その都度もらう通常必要な学費などはそもそも贈与税がかかりません。
もしも、一括でまとまったお金の贈与を受けるのであれば、「教育資金の贈与税の一括贈与に係る非課税措置※2」という制度があります。教育費は1,500万円まで、塾や習い事など学校以外にかかる費用は500万円までは贈与税がかかることなしに教育資金を準備できます(※2 2026年3月31日まで)。
【家を購入するために頭金を援助してもらった】
住宅を購入するときに、親などから購入資金の一部を援助してもらうことがあるかと思います。一般的に不動産は高額ですから、頭金として一括で多額の費用をもらえば、基礎控除の110万円以上になることは十分に考えられます。
このようなときには、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置※3」という制度があります。この制度は、18歳以上の人が父母や祖父母から住宅の購入やリフォームなどの資金を贈与された場合、住宅の省エネ性能などによって、500万円または1,000万円までの資金なら、贈与税がかからない制度です(※3 2026年12月31日まで)。
贈与を受けるときの注意点も押さえておこう!
贈与を受けるときには、知っておきたい注意点もあります。
先述の取り、基本的に父母や祖父母などの扶養義務者から贈与された生活費や教育費については、贈与税はかかりませんが、これらは必要な都度(必要なときに)贈与を受けて、必要な費用に対して利用したものに限られます。
例えば、子どもが高校や大学に合格したときに、卒業までの学費をまとめて贈与された場合は“都度”ではなく一括になりますので、贈与税がかる可能性が高くなります。
このようなケースでは、入学金を学校に納入するときや、翌年度の授業料を納入するタイミングで贈与を受けるようにしましょう。どうしても一括でもらう必要がある場合には、先ほどご紹介した、「教育資金の贈与税の一括贈与に係る非課税措置」を利用するのが賢明です。
なお、贈与されたお金を銀行に預けたときや、教育費以外のものに使ってしまうと、これも贈与税の課税対象になりますので注意してください。
まとめ
日頃、あまり意識していないかもしれませんが、お金や財産をもらうと贈与税がかかる場合があることも覚えておきましょう。とはいえ、年間110万円以内の贈与や教育費などをその都度もらう贈与など、贈与税がかからない制度もあります。お金や財産を渡す側も、受け取る側も、こういった制度を意識しておくことも大切ですね。
※この記事内容は、執筆時点2024年12月25日のものです。
高橋 浩史(たかはし・ひろし)
ファイナンシャルプランナー。FPライフレックス代表(ウェブサイト https://www.fpliflex.com/)
住宅購入・老後資金準備・保険見直し相談など、ライフプランニングをベースにした家計全般へのアドバイザーとして活動中。金融機関でのセミナー・研修講師、書籍・雑誌、webでの執筆業務も行う。主な著者に「災害に備えるライフプランニング」(近代セールス社)、「老後のお金安心ガイド」「最新保険ランキング」(イースト・プレス)など。