「育てる」から
「支援する」関係性に

子どものすこやかな成長を願いながらも、日々悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。この連載では「子どもの心を守る」をテーマに、幼少期から思春期までのお子さまとの向き合い方を小児科医の小澤美和先生にお伺いしました。全6回でお送りするシリーズ後半は「思春期篇」。今回は、「育てる」から「支援する」という関係性の変化についです。

監修:

小澤 美和

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思春期のSOSには
わが子を変えるのではなく
環境を変えてあげる

 思春期で起きている状況やSOSは、子どもが持っている「個性」と「環境」との中で起きている問題です。
 トラブルを解決するためには、まずわが子のタイプを知ることが大切です。例えば「頑張り屋さんの子」の場合なら、まず、なんでも一生懸命やる→なんでもできるように見えるので周囲から次の課題が与えられる→さらなる課題をちゃんとこなせるか不安→さらに頑張る→失敗や恥に対して敏感になり緊張がどんどん高まっていく…といったことが起こりうるかと思います。「頑張る」というポジティブな個性が、過剰に適応しようとするせいで不安やストレスに繋がっていくのです。
 こういった悪循環を改善するためには、本人の「個性」を変えるのではなく、親がわが子の「環境」を変えてあげることが何より重要だと考えられます。とても頑張っていることや不安を理解してあげること。その上で、取り組む課題を減らすなどのストレスを軽減できる環境を用意してあげることを心がけてください。

わが子のことが分からないと感じたら
「向き合い方」を変えるタイミング

 子ども自身はその成長の過程で、自然に自立の道を歩んでいきます。一方で親側は、いつまでも子どもを「育てる」という感覚であり続けているのではないでしょうか。
 幼児期には一緒に楽しんだりどこかへ行ったりしてあげる必要がありましたが、思春期には少し距離をおいて見守ってあげる、つまり「支援する」というスタンスが親側の意識として求められます。見守ると言っても放っておくのではありません。ちゃんと目をかけてあげて、戻ってきたら愚痴を聞いてあげたり温かいご飯を出してあげて、また自分の足で前に進むために心身を整える手助けをするよう、自主性を支えてあげることが大切です。これは先ほどお伝えした“個性を変えるのではなく環境を変えてあげる”と共通する部分でもあります。
 思春期になるにつれて、わが子のことが「よく分からないな」「言うことをきかなくなったな」と感じ始めたときが、実は「支援」にシフトチェンジする良いタイミングかもしれません。トップギアでわが子にあれこれ手を尽くすのは幼少期までとして、思春期には少しギアを落としたり臨機応変に調節してあげるような感覚でいると良いでしょう。

子育てのゴールは、わが子が
社会を自力で生きていること

 わが子をよく知ろうとすること。そしてトラブルを緩和できる環境を整えてあげること。そして見守ること。思春期に求められる「支援」は、わが子に何かを指示してその通りの行動を期待するものではなく、危うさを感じながらもすぐには出ない結果を待つような根気が必要です。しかしその積み重ねによって、子ども自身は親から見守られていると実感することができ、安心感や自己肯定感を持つことができるようになるのです。
 子育てのゴールは、わが子が社会を自力で生きていける判断力を身につけること。そのためにも、思春期のわが子を“いい塩梅の距離感で見守る”ことで、彼らの自立をぜひ支えていってほしいと思います。親子の間に愛着が感じられる関係性が基盤にあれば、その関係性は他者との間でも生かされるようになり、やがてわが子は思春期を卒業して無事に独り立ちしてくれるはずです。

教えて!小澤先生
つい同じことを何度も口出ししてしまう。
どうしたらよいか…。

子どもって同じことを何度も言わせるものですよね(笑)。基本的には見守る姿勢を前提として持ちながら、まずは間違っていることに気づきの機会を与えてあげる必要はあると思います。ただそこで2度3度と言っても、結局そのときにはどうしても感情的になり話も長くなるでしょうから、繰り返しても伝わるとは限りません。
「口出しは1度まで」という戒めではなくて、「何度繰り返しても変わらないものだ」「干渉しすぎはためにならない」というくらいのスタンスで考えておきましょう。
また、話すときは子どもの気持ちを受け止めた上で、感情にまかせず1つ低いトーンでしゃべること。そして、長くなりすぎないように伝えたいことだけ言うようにしてほしいですね。なかなか難しいことですが、心がけておくだけでも随分違うと思いますよ。

※この記事内容は、執筆時点2022年1月26日のものです。

小澤 美和(おざわ みわ)
聖路加国際病院 小児総合医療センター 医長。子ども医療支援室 室長。AYAサバイバーシップセンター 副センター長。
病気の初めから終末期まで、病気になった親子を取り巻くがんに係る諸問題の第一人者。また、乳幼児健診や学校医として、健康な子どもも病気になった子どもも、その子なりの成長を支えるケアのスペシャリスト。看護師、保育士らと共にきょうだいレンジャーとして、病気のこどものきょうだい支援に取り組み、NPO法人グリーフサポートリンクと協働で開催する親と死別した子どもの集いや、子どもを亡くした親の自助グループの運用に携わっている。
親子に読んでもらいたい絵本「おかあさんだいじょうぶ」(小学館)共著。年数回、小学校~高校で「がん教育」を担当。小児科専門医/指導医、子どものこころ専門医/指導医。

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