思春期って
どういう時期なの?

子どものすこやかな成長を願いながらも、日々悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。この連載では「子どもの心を守る」をテーマに、幼少期から思春期までのお子さまとの向き合い方を小児科医の小澤美和先生にお伺いしました。全6回でお送りするシリーズ後半は「思春期篇」と題し、自立していくわが子といかに向き合っていくかについて考えていきます。

監修:

小澤 美和

〉〉〉プロフィール

親や養育者以外の「他者」との中で
社会性を身につける思春期

 前半の幼児期篇(Vol.1~3)では、幼児期は親と子の2者関係で成り立っていることをお伝えしました。子どもの成長を木に例えましたが、その木が周りの社会と繋がっていく時期が「思春期」です。いくつもの枝が育つにつれ、その先々での環境に影響を受け、葉を茂らせて樹冠を成していくのです。
 具体的には、親などの身内以外の「他者」との関係性が重要になってくる時期だと言えます。親は社会通念を教えていくものなので、幼児期は子どもも同じような価値観を持ち、親子が一体化しているような状態です。
 しかし思春期になると、社会通念とは異なる価値観、つまりはお子さま自身の意思のプライオリティーが高まり、「お母さんはダメっていうけど、楽しいから友だちと遊びたいんだよね」というような行動に出ます。親の価値観から離れ、他者との間に生まれた価値観が身近なものになるからです。
 そのため、「あれをやれ」「これはダメ」とモグラ叩きのように押さえつけても、この時期のわが子は聞く耳を持たず、親を生理的に受け付けないくらいの感覚でいると思ってください。社会性を身につけ始めている証拠であって、何も異常なことではありません。

思春期のわが子は、階段を1歩ずつ
着実に上ってくれる訳ではない

 依存しなければ生きていけない幼児期とは違い、少しずつ社会性を獲得しながら自立の道を歩み始めていく思春期。
 「自分でできるから!」と言ったにもかかわらず「やっぱりできなかった…」と泣きつかれる、といったことも良くあります。そんなときは「それ見たことか」と思わず、逆に親元に助けを求めに戻ってきたことを「そうかそうかよく戻ってきたね、ありがとう」くらいの感覚で迎え入れてあげましょう。
 例えて言うなら階段を3歩上って2歩下りるようなもの。子どもが自力でできなかったことを責めるのではなく、できずに親に頼ってくれたことを感謝しつつ次の1歩を上るための休息と知恵を授ける覚悟を、親自身が持つことが必要です。放任して無暗に上らせるのではなく、親が見守りながら結果的には安全に1歩上れている、子どもからすれば親がいざというときには頼れる存在なんだと思える、こういった関係が思春期には大切なのです。

やりたいことを優先するわが子に
親はどう接していくべきか

 親への依存が少しずつ減り、親からの支配的な関係から独立していくのが、思春期の子どものあるべき姿です。自立の道を歩む以上、自己愛が高まり、やりたいことを優先することはごく自然なことです。
 まずはわが子の意思を尊重し、やりたいことをやらせてあげてはどうでしょうか。もちろん、自分や他人を傷つけたり、物が壊れるということだけはないように注意を払う必要はありますが、やってみて、困ったときやピンチに陥ったときに、相談できる場所さえあれば問題ありません。
 先述のとおり、親が頼れる存在であると感じてもらえるようにすることがひとつと、困ったときにはこういう方法もあるよというヒントを授けることで、わが子に最低限の安全は確保しながら失敗を成長の糧となる経験にしてもらえたらいいと思います。

教えて!小澤先生
「ウザい」「クソババア」と言われて、
親としてはショックなのですが…

思春期の子どもはすごくエネルギーに溢れているので、ちょっとしたことで爆発することがあるものです。子どもがいちばん安心して爆発できる相手が親なので、この時期にはやむを得ないことだと思いますよ。子ども側としてはさほど悪気があって使っている言葉ではなく、単にNOという意思を示しているだけだと思います。
受け取る親が一瞬はカッとなるのは無理もありませんが、額面通りに受け止めないようにしましょう。大人の方まであまり感情的になりすぎると、お互いに収まりどころを見失ってしまいます。多少悪態をついてもご飯は出てくるし生活に支障はきたさない、という信頼関係があるからこその言葉ですので、やがてはその言葉はなくなり信頼関係が強まるものだと考えてほしいですね。

※この記事内容は、執筆時点2022年1月26日のものです。

小澤 美和(おざわ みわ)
聖路加国際病院 小児総合医療センター 医長。子ども医療支援室 室長。AYAサバイバーシップセンター 副センター長。
病気の初めから終末期まで、病気になった親子を取り巻くがんに係る諸問題の第一人者。また、乳幼児健診や学校医として、健康な子どもも病気になった子どもも、その子なりの成長を支えるケアのスペシャリスト。看護師、保育士らと共にきょうだいレンジャーとして、病気のこどものきょうだい支援に取り組み、NPO法人グリーフサポートリンクと協働で開催する親と死別した子どもの集いや、子どもを亡くした親の自助グループの運用に携わっている。
親子に読んでもらいたい絵本「おかあさんだいじょうぶ」(小学館)共著。年数回、小学校~高校で「がん教育」を担当。小児科専門医/指導医、子どものこころ専門医/指導医。

TOPページに戻る