介護する際の
記録の重要性
介護経験のない方はもちろん、すでに介護をされている方にも是非ご覧いただきたいシリーズ「教えて介護」。第5回目のテーマは「記録の重要性」です。介護で家族間のお金にまつわる揉め事が起きています。こうしたトラブルを防ぎ、大きな効果をもたらしてくれるのが日々の記録です。くわしくお話を伺いました。
介護を頑張った人が
相続では蚊帳の外…
——介護で家族が揉めてしまう事は多いそうですね。
阿久津氏(以下、敬称略)
残念ながら、ほとんどのケースで揉めると言っても良いと思います。その主たるものがお金です。ただ、実はお金そのもののトラブルではなく、介護する側の報われない感情の問題が非常に大きいですね。
——具体的にどういうことでしょうか。
親の介護を、長男ではなく実家に残った他の兄弟姉妹が行うことがあります。介護する側の立場からすると、長男の代わりに一生懸命自分の時間を費やしたという気持ちがありますが、いざ相続になるとその貢献度は無視されがちです。配慮してもらったとしても、納得いかないことも多いです。
こうした感情が、お金という形に現れるのです。介護が終わったら、この手の揉め事は当たり前に起きるものだと、事前に心づもりをしておいた方が良いでしょう。
——揉め事を回避する方法はありますか。
阿久津
離れて暮らしているなどで、自分が介護の「プレイヤー」になれない場合に「お金を出す」のは一つの方法です。本来、介護は時給換算していいはずの時間労働です。こうした提案は、後々のトラブルを軽減する手段だと思います。
そしてもう一つが「記録」です。自分が何を行ったか、何の費用を立て替えたのか、などを書き留めておきましょう。費用に関しては領収書を添付しておくことも有効です。こうした記録が後々のトラブルの軽減になります。
ただ、記録の重要性はそれだけではありません。
日々の記録が
介護者の心を救う
——トラブル回避以外で記録を残す意味は?
阿久津
記録は「介護の日記」にもなります。要介護者、つまり親御さんとの思い出そのものです。むしろ、この要素の方が重要だと感じています。
出来事は時間が経つと忘れてしまい、後からではなかなか思い出せません。
私たちが「介護者手帳」を作ったのも、母子手帳と同じように使ってもらいたいという思いからです。
——記録の重要性に気づいた、何かきっかけがあったのですか。
阿久津
突然母を介護することになったとき、父は母が倒れた日から毎日日記をつけていました。しかも私たち娘の前で書き、またそのノートを見えるところに置いていたので、「これは私たちに読めというメッセージ?(笑)」と、時々読んでいました。
最初のころは薬の話など事務的な記録が並んでいたのですが、時間が経つと徐々に感情を吐露し始めていました。特に男性は、弱音などの感情を伝えるのが苦手な人が多いと思います。父にとってみれば、あの日記が居場所だったのかもしれません。
思っていること、感じていることを文字にすることで、頭が整理出来たり、気持ちが楽になったりする経験ってありませんか。日記は、後から見返すためだけでなく、書いた瞬間から救われているのだと思います。
——介護する方の心の救いになるんですね。
阿久津
両親が亡くなった後は、辛くてしばらく父の日記を読むことができませんでした。でも時間が経って見てみると、介護していた日々や両親との思い出が鮮やかに蘇ってきました。
私自身は日記をつけていなくて、後悔しているのですが、父が遺してくれた4年間で何十冊にもなる記録は、私にとっての宝物です。
トラブルを防ぐだけでなく、ご自身の心のケアのためにも記録をつけることをお勧めしますね。
——ありがとうございました。
次回はコロナ禍での介護についてお話をお伺いします。
※この記事内容は、執筆時点2021年4月1日のものです。
阿久津 美栄子(あくつ みえこ)
1967年長野県生まれ。自身の介護経験からNPO法人UPTREEを立ち上げる。介護者のための「介護者手帳」を製作し、介護家族の支援モデルの確立に注力している。2019年4月「介護あっぷあっぷくん」(介護未経験者・初心者向に向けて介護の基本的な情報、介護保険の仕組み、介護に利用できる公共サービスなどを教えてくれるLINE公式アカウント)をリリース。著書に「ある日、突然始まる 後悔しないための介護ハンドブック」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「家族の介護で今できること」(同文書院)。