身体のSOSに気づいてますか?
身近に起こる「脱水症」の恐怖
夏にだけ発症すると思われがちな「脱水症」ですが、実は一年中起こり得る危険性があります。その原因と体にあらわれるシグナルを学ぶことで、身近にある脱水の恐怖から身を守りましょう。
夏だけではありません
通年で発生する脱水症
人間の体重のおよそ60%は、体液と呼ばれる水分が占めています。汗や尿で水分が排出されても、通常は飲み物などで補い、体重の60%を保つようになっています。しかし、何らかの事情で水分の摂取量が足りなかったり、必要以上に排出されたり、あるいはその両方が生じたりすると、体内の水分量は不足し、60%を下回ることがあります。簡単にいうと、それが「脱水症」です。
脱水症は、汗をよくかき、水分の排出量が増える夏季に多く発症すると考えられがちです。たしかに、夏季に脱水はよく起きますが、実は冬季でも生じることがあります。冬の脱水症は、空気の乾燥と水分の摂取量が少なすぎることによって起こるケースが多いです。さらに病気によって脱水症に陥ることも少なくありません。例えば、インフルエンザや風邪などで高熱が出ると、必要以上に身体の水分が奪われてしまいます。また、ノロウイルスなどでおう吐や下痢が続くことによって、水分が失われ脱水症の危険にさらされます。心臓病や高血圧などの治療のために服用した利尿剤によって引き起こされることもあります。
このように脱水症は、さまざまな原因によって、一年中いつでも発生する可能性があるのです。
高齢者はさらに要注意!
「慢性脱水」と「かくれ脱水」
脱水症に関して、高齢者にはさらに注意が必要です。なぜならば、水分が体重の50%程度しかない、「慢性脱水」や「かくれ脱水」状態の高齢者が多いからです。その原因として、加齢とともに食事の量が減って水分の摂取も減ることや、筋肉が落ち、筋肉に蓄えられる水分量も減少したことなどが考えられます。
それらの対処法として、まずは、少量ずつこまめに水分を摂取することが大切です。1日に1リットルから1.5リットルに当たるコップ5〜8杯の水を、2〜3時間ごとに分けて飲んでください。筋肉をできるだけ落とさないために、タンパク質の摂取や、適度な運動も心がけましょう。
高齢者の場合、脱水症によって腎臓機能や認知機能が急激にダメージを受けることで、命に関わる病気につながる恐れがあります。日頃から予防に努め、水分不足にならないようにしましょう。
「いつもと違う」体調の変化が
脱水症のシグナル
脱水症の最初のシグナルになるのは、体調の変化です。「何となく集中力に欠ける」「眠気がなかなかとれない」「身体に痛みがある」など、いつもとは違う身体の状態に気づいたら、脱水症を疑い、まずは水分を補給して体調が戻るかどうかを試してください。
体調の異変が「記憶力が低下している」「頭痛がする」「身体に力が入らない」「こむらがえりを起こしたり、足がつったりした」「下痢や便秘になった」「体重が急激に減少している」など、より激しいものになったり、複数の症状が同時に現れたりした場合には、脱水症の可能性が非常に高いです。すぐに診察を受けることを勧めます。なお、どの病院にも脱水症の専門科はありませんが、逆にいえば、医者なら誰でも的確に脱水症は対処できるということ。安心して受診してください。
日常生活で意識したい
脱水症の予防対策
脱水症を防ぐために肝心なのは、水分を十分に摂ることです。のどが少しでも渇いたら、すぐにコップ1杯の水を。スープや出汁などの水分の多い食事を摂るのもおすすめです。高齢者の中には、トイレが気になるために、水分の摂取をセーブする人を見かけますが、故意に控えることは避けてください。
さらに、野菜やフルーツを中心に、きちんと食事をすることも重要です。夏ならトマトやキュウリなどで、水分だけでなくビタミンやミネラルも補いましょう。
夏季の予防の基本は、とにかく暑さから逃げることです。首の両側には太い血管が通っており、熱せられて血液の温度が上がると、脱水症を招いてしまいます。外で作業する場合は、時間を極力短くし、外出する際には、頭や首の後ろではなく、首の両側をタオルなどで覆い、熱を遮りましょう。
また、天気予報の情報や、気温計・湿度計を細かくチェックすることも予防につながります。特に高齢者は、「温感センサー」が鈍くなっていて、暑さに気づきにくくなっているので、意識して情報に接するようにしてください。
脱水症は誰もがなる可能性があり、就寝時・入浴前後・運転中など日常生活の中でも起こり得ます。食事や水分を十分に摂取するのはもちろん、暑さ、寒さに敏感になることや、体調のわずかな変化を見逃さないこと、万一に備えてOS−1などの経口補水液を用意しておくことなどが重要です。
※この記事内容は、執筆時点2020年8月1日のものです。
谷口 英喜(たにぐち ひでき)
済生会横浜市東部病院 周術期支援センター長。1991年福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。著書に『熱中症・脱水症に役立つ 経口補水療法ハンドブック 改訂版』『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』など多数。