疲れやすくなったら要注意?!
命を支える血管若返り術

血管は加齢や生活習慣の乱れで硬くなり、心筋梗塞や脳梗塞、大動脈瘤などの大きな病気の原因にもなります。そうなる前に、血管をしなやかな状態へと若返らせる方法をご紹介します。

監修:

新浪 博士

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血管が衰えていくと
体に不調が表れる

 血管は、健康のために必要な役割を果たす血液を循環させる重要な器官です。血液の役割は大きく二つ。一つは、細胞に酸素や栄養を送ること。もう一つは、細胞の老廃物を解毒や排泄するために肝臓や腎臓に運ぶことです。その他、怪我をしたときには止血を促すと共に、体内に侵入した菌に対する免疫機能も発揮し、病気から体を守る、体温を維持・調節するなどの働きも担っています。
 しかし、血管は、年齢を重ねることで徐々に機能が衰えていきます。若いころは、やわらかくしなやかな状態でポンプのようにスムーズに血液を全身に循環させることができます。ところが、機能が衰え、血管が硬くなると、血液の勢いを吸収できずに血管が傷ついていき、血液の循環がしにくい状態になってしまいます。すると、体に老廃物が溜まったり、必要な栄養素などが十分に運ばれなくなったりしてしまうため、体に不調が起こりやすくなるのです。不調は動悸や脈の乱れ、足のしびれなどといった小さなものから、心筋梗塞や脳梗塞などの重大なものまでさまざま。血管は健康のバロメーターともいえるのです。
 血管が硬くなる原因は、年齢によるものもありますが、他にも進行を加速させる要因がいくつもあります。疲労やストレス、過食や偏食などの食生活の乱れ、睡眠不足、喫煙などの生活習慣などです。こうして硬くなっていく状態を「血管の老化」といいます。中高年や高齢の方の問題のように感じるかもしれませんが、比較的若い30代くらいから血管の老化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの病気にかかる人が増えています。これは先に挙げたような生活習慣が大きな原因です。生活習慣の問題を見直すことが血管の老化を食い止めることにつながるのです。

血管の衰えチェックリスト

□ お腹いっぱいまで食べてしまう
□ 味の濃い料理が好き
□ 就寝前の2時間以内に食事や飲酒をする
□ 数年前と比べてかなり太った
□ 休日は家でゴロゴロして運動をしない
□ せっかちでイライラしやすい
□ 親や兄弟に心臓病や脳卒中の人がいる
□ 喫煙者である

その① マッサージや運動で
血管に刺激を与えよう

 血管の老化は、「何だか疲れやすくなった」「疲労がなかなか回復しない」などの体調の変化から自覚するようになるといわれています。特に運動習慣もなく、漫然とした食生活を送っている人は、気付いたときには血管の老化がかなり進行していることもあります。そうならないために、注目されているのが「一酸化窒素」。血管の老化を抑え、しなやかな状態を保つ働きがあるとされています。一酸化窒素は、血管に刺激を与えることで体内で分泌されます。例えば、マッサージやストレッチ、運動などで、筋肉を動かし、血管を刺激して血流量をアップさせると一酸化窒素が次々とつくられるようになるのです。
 運動は健康に良く、一酸化窒素の分泌を促進しますが、一方でジョギングなど、息が切れるほど激しい運動は、血管には逆効果。血管の老化を進める活性酸素を発生させてしまうからです。ウォーキングなどの軽い運動の方が血管のためには良いのです。1日8千歩~1万歩ほどのウォーキングが有効です。
 また、血管を押したりさすったりする「血管ほぐし」も効果的です。1日数分、生活の中に取り入れるだけで血管を若返らせることができます。下の図を参考にぜひ行ってみましょう。

■血管ほぐしを実践!

【脇の下ほぐし】

脇のくぼんでいるところに、4本の指の腹を当てて、軽く押したり、さすったりしましょう。
左右1分ずつが目安です。

【そけい部ほぐし】

椅子に座り、4本の指で太ももの付け根に手を添え、そけい部をぐっと押します。
5秒を5回が目安です。

その② バランスの良い食事が
若返りのための基本

 若い血管づくりのためには、3食のバランスの良い食事も欠かせません。
 血管に良い食材の代表的なものが、イワシやサバなどの青魚とカツオやマグロなどの赤身魚。EPAという成分がしなやかな血管へ導いてくれます。また、血管の老化を防ぐ抗酸化作用のある緑黄色野菜、食物繊維が豊富な海藻やキノコ類もおすすめの食材です。
 ポイントは、まんべんなくさまざまな食材を摂ること、そして食事の順番です。血糖値の急上昇は血管の負担になるため、糖の吸収を穏やかにする野菜や、キノコ、海藻類から摂るようにしましよう。

その③ 23時~7時の就寝が
ベストな睡眠習慣

 疲れた脳や体を回復させてくれる睡眠。ぐっすりと眠ることは、血管の負担を招く高血圧の原因であるストレスの軽減にもなります。また、眠っている間に血管の修復とメンテナンスを行うのは「メラトニン」と「成長ホルモン」。メラトニンは、朝日を浴びてから15~16時間後に眠りを促すために分泌されます。成長ホルモンは、眠りについた3時間後に分泌量がピークを迎えます。この二つの分泌が重なる理想的な時間帯が23時~7時。この時間にぐっすりと眠ることで血管が良い状態に保たれます。

その④ 正しい入浴法で
リラックスした状態へ

 良い睡眠のためには、入浴も重要なポイントです。38~41℃のぬるめの湯船に、ゆっくり15分くらい浸かることで、体のスイッチが緊張状態からリラックス状態へ切り替わるからです。また、湯船の中で血管が広がると血流が良くなり、一酸化窒素の分泌も促進されます。

 血管は、日常生活に気を配ることで若返らせることができます。運動や食事、睡眠習慣、入浴法といったできることから見直していきましょう。

※この記事内容は、執筆時点2022年8月1日のものです。

新浪 博士(にいなみ ひろし)
東京女子医科大学 心臓血管外科学教授・基幹分野長。1987年、群馬大学医学部卒業後、同年、東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所研修医。1991年、東京女子医科大学大学院修了。アメリカ、オーストラリアへ留学、心臓血管外科の研究と治療に従事する。帰国後は東京女子医科大学助教授、順天堂大学助教授、埼玉医科大学教授を経て、2017年より現職。

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